「じゃあ、コイツで行ってみるわ」
告げながら、ビクトールは赤色の小瓶を手に取った。
その行動を目にして、ホウアンは嬉々とした声をかけてきた。
「それは一番の自信作なんですよ。絶対になにかしらの効果があるはずですから、絶対にフリックさんに飲ませて下さいね? 途中でどこかに落として割ったりしないで下さい。あと、飲ませた後のフリックさんの様子が変化する様は、後で事細かに聞きますから、ボウッとしてたり見とれていたりしないで、ちゃんと覚えておいて下さいね」
火が付いたように一気に語りかけてくるホウアンの言葉を耳にして、ビクトールは僅かに腰を引いた。
いつも穏やかに話す彼が興奮している姿が、妙に恐ろしく思えて。
だが、一般人にビビっるなんてこと、してはいけない。そんなことでは元傭兵隊隊長の名が泣いてしまう。
いや、別に泣いても良いのだが。
とにかく、一般人に気圧されてなるモノかと気持ちを奮い立たせて平静を装い、力強く頷き返した。
「ああ。任せろ」
「…………何を任せるんだ?」
キッパリと言い切り、胸をはったビクトールの言葉に突如入った問いかけに、ビクトールとホウアンはビクリと大きく身体を震わせた。
そして、恐る恐る声が聞こえてきた方へと顔を向ける。
「…………フッ……………フリック……………」
視線の先に立っていた予想通りの人物を視界に入れ、ビクトールはあえぐように彼の名を呟いた。
全く気配が無かった。
この場にやってきた気配が。
気配どころか、ドアを開けた音すらしなかった。
いったいいつからそこに居たのだろうか。今まさに来たような口振りではあるが、もしかしたら、最初から自分達の会話を聞いていたのかもしれない。その可能性は大いにある。
背中にはイヤな汗がしたたり落ちていく。額にも脂汗が浮かび上がっていることだろう。表情も、これ以上無いくらいに強ばっているに違いない。
そんなビクトールの姿を、フリックは感情の色が窺えない瞳で見つめ返してくる。そして、青白い怒りのオーラが見えてきそうな声で言葉を発してきた。
「何かコソコソやっていると思ったら…………なにを下らないことやってやがるんだ。お前ら」
言葉と共に全身から滲み出してきた青白いオーラを医務室内に漂わせながらそんなことを言ってくるフリックに、ビクトールはアワアワと口を開閉させながら言葉を探し、手を大きく振り回した。
「いやっ、あのっ、そのっ! そっ、それはだな…………っ」
【ホウアンのせいにする】 【言い訳する】 【謝る】