「さっ…………最近ちょっと、下半身の具合が心許なくてよ。まだ枯れるのは早いってーのに。だから、ホウアンに相談して、だったら新開発された精力剤を試してみたらどうだって事になってだな、で、コレを今、受け取ったところなんだ。うん」
「そうなんですよ。コレで成功した暁には、財政が厳しい同盟軍が軍資金を集めるための商売道具にしようかと考えまして。こういったモノは、どこでも重宝されるものですからね」
「――――ほう」
冷えた眼差しで小さく呟いたフリックは、ゆっくりと胸の前で腕を組んだ。
そんな些細な動作一つで、フリックからのプレッシャーが増す。
そのプレッシャーを感じて身体に震えが走ったが、一度嘘をついてしまったらつき通してしっかりと誤魔化さないと、後々の報復が激しいモノとなるだろう。
そう考え、ビクトールはなおも言い訳を口にし続けた。
「いや、だから、その。別にやましい事ではないんだよ。ただ、ちょっと恥ずかしい事だって事で。お前も、そんな状況に陥ったら恥ずかしいって思うだろ? だから、ちょとコソコソした感じになっちまったかな? って、感じでよ………」
必死に言い訳の言葉を吐き続ける。言葉を吐き出せば吐き出した分だけ、嘘っぽさが増してくるなと、思いながら。
そに嘘っぽさを感じ取ったのか。フリックの綺麗な顔にジンワリと笑みが浮かび上がってきた。
瞳の奥に、冷えた輝きを宿したまま。
「へぇ…………お前のモノがそんな状態になっていたとは、全然気付いていなかったな」
「あ、いや…………」
「そんな薬に頼りたくなるくらいの状況だったとはな。年中一緒にいたのに気付いてやれなかった事に、心苦しさを感じるよ」
「や、べつに、そんな、気にする事では………」
「気付いてやれなかった詫びに、その薬がどれだけ効くか、責任持って見ててやるよ。いつもの状態を知っているヤツが冷静に状況を分析した方が、良いデータを取れるだろうしな。なぁ、ホウアン?」
前半はビクトールに。後半はホウアンの方へと顔を向けて言葉を発したフリックは、言葉の最後にニッコリと可愛らしいとも言える笑みを浮かべてくる。
その表情は無邪気ともガキくさいとも言える表情だった。周りにいる友人達が下ネタを話している事に気付かずに、知っている言葉にだけ反応して見当違いな言葉を発してしまった少年のような雰囲気がある。
しかし、彼は絶対に全て分かっている。
最初から全部聞いていたのか、はたまた自分達の様子から察したのかは分からないが、ホウアンとビクトールの企みの全てを分かっているのだろうと確信した。
分かっているのに分からない振りをして、自分達を追いつめているのだ。フリックを陥れようとした自分達に制裁を加えるために。
いや、『自分達に』、ではなく、『自分に』、かもしれないが。
「さぁ、ビクトール。その薬を飲んでみろよ。あぁ、ズボンを脱ぐのが先だぞ。後から脱いだんじゃ、変化をつぶさに観察することが出来なくなるだろうからな。ホウアンも、しっかり見て置けよ。こいつは、患者なんだからな」
さぁ、脱げ、さぁ飲めとフリックの瞳が告げてくる。
もの凄く楽しそうに。そして、もの凄く物騒な光をその青い双眸の奥に宿して。
嫌だと言ったら、命は無いだろう。
「うぅっ……………」
小さくうめき声を上げながら、ビクトールはしばし考え込んだ。耐え難い羞恥に耐えてでも嘘を突き通すべきか、命の危険があろうとも辱めを受けない事を選ぶべきか。
コレは、かなり難しい選択だ。
だが、いつまでも迷っていては騙されてくれるところも騙されなくなってしまう。どんな答えを選択するにしても、早々に答えを口にしなくては。
そう考え、ビクトールは大きく息を吸い込んだ。
そして、意を決したように顔を上げ、口を開く。








【謝る】 【飲む】