そんな風に街から街へ渡り歩き、四つ目の街にやってきた。その間の戦闘はビクトール達三人だけが行い、どんな状況でもヴァイス達が手を貸す事は一切無かった。
「・・・・・・ちっと、傷薬が心許ないかぁ・・・・・・?」
仕事に出掛けるというヴァイス達を見送り、食事を終わらせたビクトールは、宿屋の一室で自分の荷物の整理をしていてその事に気が付いた。
たいして強い敵と当たっていなかったので荷物の点検を怠っていたのだが、意外にアイテムを消費していたらしい。今すぐどうこうという程数が無いわけではないが、どのように進む旅か分からない今の状況だと、アイテムは手に入れられる時に手に入れておくにこしたことはない。
そう考えたビクトールは、自分の財布を掴んで立ち上がった。
「ちょっくらアイテムを買い足してくるわ。夜も遅いから、お前等はここで待ってろ。っていうか、寝ておけよ。」
言いながら指先でベットを示してくるビクトールの言葉に、軍主の姉弟はピクリと肩を震わせた。
「こんな時間に、買い物なんて出来るの?」
そう問いかけてくるナナミの言葉はもっともなモノだ。何しろ、そろそろ日付が変わろうかという時間帯なのだから。
普通の店は開いていない。が、傷薬程度のものを扱う店は、まだ開いている。少し、相場よりも高いかも知れないが。
「まぁな。これくらい栄えている街ならあるだろ。一件くらい。だから、ちょっと行ってくるから。」
どこらへんに有るのか二人に教えるのも憚られるので、適当に言葉を濁してドアノブに手を伸ばす。
その手を、ナナミが横から掴み取ってきた。
「私も行くっ!」
「あぁ?」
「私も買い物に行きたいっ!」
「・・・・・・あのなぁ・・・・・・・・」
嬉々としたナナミの言葉に、ビクトールは深々と溜息を吐き出した。
「お前みたいなガキがこんな時間に出歩くもんじゃねーよ。大人しく待ってろ。」
「たまには良いじゃない。ここにはシュウさんも居ないんだし。ね?」
「僕も出歩いてみたいな。良いでしょ?」
「オイオイ・・・・・・・・・」
こんなガキを連れてアアイウトコロに赴くのはどうだろうか。少し教育に良くない気がする。とは言え、何事も経験だ。後でシュウに怒られるかも知れないが、怒られる要素は今の時点で十分に揃っているから、いまさら罪状が一つ二つ増えた所でどうって事は無いだろう。
そう判断したビクトールは、ニヤリと、意地の悪い笑みをその口元に浮かべた。
「分かった。だけど、あんまり騒ぐなよ?」
「うん!大丈夫っ!」
力強く頷くナナミの言葉に苦笑を浮かべながら、ビクトールは子供二人を誘って夜の街へと、足を向けた。
飲み屋といえども、日付を越えれば店じまいをする店が何軒か出てくるから、町並みは暗い。
月明かりだけを頼りに長年の経験と勘に頼って歩き、ビクトールは一件の薬局を見つけた。
店構えは大した物では無かったのだが、揃っている商品の質はそれなりに高く、日中に購入するよりも少し割高な事も許せる気がした。
普通の薬局ではお目にかからないような代物に興味津々と言った様子を見せるチッチとナナミを無理矢理店から引きずりだしたビクトールは、来た道をのんびりと歩いていた。
行きはいつ店が閉まるか分からなかったので少し慌てていたのだが、欲しい品物を手に入れた後は急ぐ必要が無い。チッチとナナミが妙に嬉しそうにしていることだし、少し夜の街を徘徊してみよう。
そう考え、ビクトールはチッチとナナミにその事を告げようと視線を自分の後ろを歩く二人組に向けようとした。
その時。
ビクトールの視界に黒い影が引っかかった。
何だろうかと視線をそちらに向けると、その視界に引っかかったモノの正体がすぐに知れた。それは、別れたときと同じ全身黒い衣装に身を包んだヴァイスだった。
一人目の客の相手を終えた所なのだろうか。彼は夜の闇にとけ込むように気配も無く、闇の中を渡り歩いている。視界の隅にその姿が映らなかったら、彼が歩いている事すら気付かなかったのでは無いだろうか。そう思うくらい、彼の気配は希薄だった。
立ち止まり、どこぞに視線を向けているビクトールの様子に気が付いたのか、チッチとナナミもその視線を追うように顔を向けた。そして、小さく声を上げる。
「あ、ヴァイスさん。」
「どこに行くんだろ。お仕事の途中なのかなぁ?」
子供達の言葉に、ビクトールは合間に頷きを返した。そうだとしたら、邪魔しない方が良いだろう。例えその事が気に入らなくても、それが彼の仕事だと言うのなら、自分には止める権利は無いのだから。
そう思って再び歩き始めたビクトールの足を、ナナミが腕を引くことで留めてきた。
「ねぇ、後つけてみようよっ!」
「え・・・・?」
「だって、どんな仕事をしてるか気になるじゃない?ねっ!行こうよっ!」
そう叫ぶなり、ナナミは勢いよくヴァイスの歩いていった方向へと、駆けだした。
「おいっ!ちょっと待てっ!」
「駄目だよっ!ナナミっ!勝手な事をしちゃっ!迷子になるよっ!」
ビクトールの制止の言葉など聞えなかったのか、そのナナミの後を追ってチッチも駆け出す。その子供二人の素早い行動に呆気に取られていたビクトールだったが、すぐにその面に苦笑を浮かべた。
そして、誰にともなく呟く。
「ッたく・・・・・・。これだからお子様はよぉ・・・・・・・・」
ばれたときにはあいつ等を言い訳に使ってやろう。
そう気持ちを切り替えたビクトールは、駆けていった二人の後を追うよう、自分もヴァイスの去った方向へと、足を向けたのだった。
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20061004up
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