深夜と言える時間。
一糸纏わぬ姿でベットの上に倒れ伏していた二つの影の内の一つが、ゆっくりと起きあがった。そして、傍らで眠る男の顔を覗き込み、満足そうに笑む。
「残念だったな。俺はまだ、ピンピンしてるぜ?」
ククっと喉で笑った男は目を覚ましたばかりとは思えない程機敏に起きあがり、床に捨てられていた己のズボンへと手を伸ばした。
行為の残りが身体にあるのであまり気持ちが良くないのだが、どうせすぐに風呂に浸かる事になるだからと我慢して、手にしたズボンをさっさと身に纏う。
上着は元々羽織ってこなかったので、上半身裸のまま武器が収納してある腰帯を慣れた手つきで装着した。
そして、もう一つ武器を手にしようとしたところで、傍らから声をかけられた。
「お主も難儀な奴よのぉ・・・・・・・・」
「つき合ってて飽きないだろ?」
暗闇の中から突然沸き上がった声に驚きもせずにそう答え、口角を引き上げながら声の方を見やれば、そこには星辰剣が浮かび上がっていた。
「それは確かな事だが・・・・・・・・あまりアレを弄ぶな。我にとばっちりが来てかなわん。」
「そんなの、自分でどうにかしろよ。俺はお前の持ち主じゃないんだぜ?そこまで気を使ってやる義理はねーよ。」
「・・・・・・・ばらされても良いのか?」
低い、脅しを込めた言葉に、男はニッコリと。とても可愛らしい笑みを返して見せた。
「ご自由に。ただし、俺もそれなりに報復させて貰うけどな。」
「真の紋章の化身である我に対して、何が出来ると・・・・」
「さぁな。ソレを言ったら脅しにならないだろ?」
顔面には笑みを浮かべつつ、だが瞳にだけは冷ややかな光を宿してそう語りかけてやれば、物言う剣はグッと押し黙った。
それで片が付いたと判断した男は、テーブルの上に乗せられていた細身の剣を手に取り、そこにはめられた青い宝石へと、そっと口付けた。
「・・・・・・・悪いな。待たせた。」
それだけ囁いてドアに向った男は、室内を振り返ろうともしないでドアを大きく開けはなった。不思議と、少しも音をたてずに。
流れるような動作で扉の向こうに消えゆこうとする細い背に、星辰剣の声がかけられた。
「・・・・・・戻ってくる気は、あるのだろう?」
その問いに、男の動きがピタリと止まった。だが、振り向きはしない。
だが、星辰剣はそんなことを少しも気にしなかった。
どうなのだと無言で問う。その声なき問いが聞えたのか、男はようやく室内に視線を向けてきた。
そして、苦笑を浮かべながら言葉を返して来る。
「俺の居場所は、今のところ決まってる。」
そう言いながら、ゆっくりとドアが閉められる。
そしてドアが閉まりきる直前に一言。付け加えられた。
「今のところは、な。」
呟くような一言を残して、ドアが閉まる。そのドアの向こうに人が歩き去る足音も気配も全く感じない。
だが、あの男はこの場から確実に立ち去っているはずだ。その探れぬ気配を探りながら、星辰剣はボソリと呟いた。
「・・・・・・そうか。」
あの男がそう言うのなら、戻ってくる気があるのだろう。
「ならば、あと少し待とうぞ。」
それくらい、自分を扱うモノも待てるのだろうから。
完全に失われないのならば、良い。
そう呟きながら、星辰剣は再び押し黙った。
剣と男の間で交わされた会話に気付きもしない男にチラリと、視線を向けながら。
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20061006up
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