「・・・・・・・・子供って・・・・・・・・・・」
最初に驚愕から立ち直ったのはナミだった。
「サンジ君の?」
「ええ。そうですよ。」
恐る恐る問いかけたナミの言葉に、サンジはどこか自慢げに頷いた。
「その子達を育てるために、船を下りたの?」
問いかけたのはロビン。サンジは彼女に視線を向け、彼女の真っ黒な瞳を見つめながらしっかりと頷いた。
「そうです。さすがに海賊船の上で乳飲み子は育てられないですからね。でもまぁ、見ての通り二人ともデカクなりましたし。船旅に耐えられるだろうから、もう大丈夫。まぁ、ルフィが良いって言えばの話だけどな。」
「良いに決まってるだろっ!」
窺うようなサンジの言葉に、ルフィはキッパリと言い切った。そして、腕を伸ばして適当なテーブルを掴み、腕が縮む勢いで子供二人の目の前へと飛び込む。
突然の行動に驚き目を見張る子供達に、ルフィは実に楽しそうに笑いかけた。
「セイにリョクか。俺はルフィだ。宜しくなっ!」
「うんっ!」
ルフィの言葉に、セイは力強く頷き、リョクは無言で首を倒した。同じ子供でも随分反応が違うものだ。
「それにしても、いったいいつの間にこんな子を?ってゆーか、サンジ君の子供?血の繋がった?」
信じられないと言いたげなナミの言葉に、サンジは苦笑を漏らしている。そんな反応は予想済みだったのだろう。
「こいつ等が生まれたのは俺が船を下りて数ヶ月経った頃ですよ。正真正銘、俺の子です。そっくりでしょう?」
問いかけながらセイの頭を叩くサンジの言葉には頷かざるを得ない。セイは髪の色と瞳の色だけではなく、眉毛の巻き具合もそっくりなのだから。
しかし・・・・・・・・・
「でも、そっちの子は、どう見ても・・・・・・・・・・・」
ナミの言葉に、皆の視線がリョクに移る。彼の小さい身体には皆の視線が痛いくらいに突き刺さっている事だろう。にもかかわらず、彼は少しも気にした様子を見せず、平然とした顔をしている。
その様子からは彼が大物なのか、鈍いのか。判断しづらい。
そんなふてぶてしさすら感じるリョクの姿をマジマジと見つめながら、ナミが彼女にしては珍しく遠慮がちに言葉を漏らした。
「リョクは、サンジ君って言うよりも・・・・・・・・・」
「ゾロに似てるって言うんでしょう?」
濁した言葉に、サンジがあっさりと答えた。そして、口端をわずかに引き上げてみせる。
「良く言われます。全然似てないって。まぁ、それは仕方の無い事ですけどね。実際全然似てないし。」
自嘲の色が滲むサンジの呟きに、ナミがハッと息を飲んだ。言ってはいけない事を言ってしまったと言うように。
「サンジ君・・・・・・・・・・」
「でも、リョクも俺の子供ですよ。大切なね。」
なんの迷いもなく告げられれば、事情を知らないクルー達にはそれ以上のことは言えなかった。
もしかしたら。いや、多分、リョクはサンジの本当の子供では無いのだろう。彼にサンジと同じパーツを欠片ほども見付ける事が出来ないから、そう思う。だが、それを分かった上で自分の子だと言うのなら、それはそれで良いだろう。本人が納得しているのならば。
クルー全員がそう胸の内でつぶやいた。そんな皆の心を伝えるように、ナミが口を開く。
「そう。分かったわ。血のつながりなんて小さな事だし。それにしても・・・・・・・・・」
ニコリと笑いながらサンジの言葉に頷いたナミだったが、すぐにその笑みを引っ込めてマジマジとリョクの顔を覗き込んだ。
そして、呟く。
「ホント、ゾロにそっくりね。」
「はははっ!ナミさんもそう思います?」
「思わない方がどうかしてるわ。本当、気持ち悪い位に似てるわね。」
「気持ち悪いとよ。」
「・・・・・・・・・うるせぇ。」
からかうような口調でサンジが言えば、リョクは不愉快そうにそっぽを向き、そのまま厨房へと戻ってしまった。どうやら途中になっていた仕事を再開したらしい。ガチャガチャと食器がぶつかる音がし始めた。その音を聞き、セイも慌てて厨房へと駆け戻る。
そんな二人の姿を優しい眼差しで見つめていたサンジは、気を取り直すように一度ゆっくり瞬いた後、ナミへと向き直り軽く首を傾げて問いかけた。
「島にはいつ着いたんですか?」
「今日の朝方よ。」
「じゃあ、出航は一週間後ですね。」
「ええ、そう。」
断定するサンジの言葉にナミがアッサリ答えた。と言う事は、ログが溜まるのに一週間かかるのだろう。島についてから一度もログが溜まる期間を気にしていなかったゾロは、密やかに頷いた。
そんなゾロを全く無視した形でサンジとナミの会話が続く。
「じゃあ、その前にここを引き払う手続きをしておきますね。あと、食料の買い出しと。船は港ですか?」
「そうよ。二代目メリー号になってサイズも大きくなってるわ。倉庫も広いし、鍵付き冷蔵庫もあるから。」
そこで一旦言葉を切ったナミは、ニコリと、珍しくなんの企みも含んで居ない笑みをサンジへと向けた。
「出来るだけ前のキッチンには近づけたつもりだけど、足りないものとかあると思うの。出航前までに言ってくれたら何でも揃えるから、遠慮なく言って頂戴。」
「ありがとうございます。太っ腹なナミさんも素敵だvv」
「サンジ君のためじゃ無いわよ。私の食生活のための投資。」
久し振りにハートマークを飛ばしてくるサンジに、ナミはサラリと言ってのけた。そして、心底安心したと言うように深々と息を吐き出す。
「ぁ〜〜〜良かった。コレでやっとあの地獄の日々が終わるわ。」
「地獄の日々?」
「そうよ。順番で食事を作ってたのよ。ゾロとルフィの時は最悪だったんだから。ルフィは焼いただけの肉だけで、ゾロなんておにぎりだけよ?」
「はははっ!そりゃあ食べてみたかったな。」
「止めた方が良いわよ。舌が壊れるから。」
これ以上無いくらい真剣な顔でそう言いきるナミの言葉に、傍らで聞いていたゾロのこめかみに青筋が浮かび上がった。そりゃあ、サンジが作るものの様に美味いものではなかったが、そこまで言われる程酷いものでもなかったはずなので。
食ってかかろうかと思ったが、心底嬉しそうに。楽しそうにこの六年の食生活を語っているナミの姿にその気が薄れる。
まぁ、今日は勘弁してやろう。
ナミの。ロビンの、ルフィの、ウソップの。チョッパーの機嫌が良いように、今日のゾロの機嫌も最高に良かったから。だから、口を噤んでおく。
傍観するように、再び騒ぎだしたクルーの姿を眺める。その話の中心に居るサンジの事も。自然と顔が緩んできた。満ち足りた気持ちになって。
「酒が飲みてーな・・・・・・・・・・・・」
今飲んだら、どんな安酒でも高級品と同じように。いや、それ以上に美味く感じるだろう。つい先程飲みきってしまったから、それは叶わない事だけど。
チラリと、厨房の方へと視線を向けた。
「・・・・・・・・・・子供か。」
思わずつぶやいてしまった言葉には、ホンノ少しだけ苦みが混じった。
あの二人の存在に、胸の内にモヤモヤしてくるものを感じながら。
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《20050107UP》