サンジがラウンジの中で色々考えている頃、甲板に出たゾロは小さな苛立ちを感じていた。
 何故か妙にムシャクシャする。
 サンジが子供達の母親について語る姿を思い出すと、妙に。
 ムシャクシャするし、苛々する。
 何故そうなるのか原因が分からないまま苛々していたら、胃の辺りがムカムカしてきた。苛々とムシャクシャに触発されたようにわき起こった症状ではあるが、その胃のむかつきは久々にありつけた美味い料理を食べ過ぎたせいだろうと思う。それ以外にムカツキを覚える理由に思い至らないから。
 身体の不調の原因が一つ分かったのでほんの少し気分が良くなったが、苛々もムシャクシャもムカムカも無くなったわけではない。
「なんだってんだよっ……ったく……」
 呻くように、腹立たしげにそう声を漏らし、苛立つ心を抑えきれぬまま甲板に寝転んだ。そして、頭上に輝くまん丸い月へと視線を向ける。
 その月の輝きが、久々に見たサンジの金色の頭とダブる。
 しばし、頭上の月を見上げ続けた。
 そして、先程のサンジを思い出す。
 子供達の母親の話をしていたときの、サンジの姿を。
 六年前にロビンやナミに向けていた過剰なまでの賛辞の言葉もなく、淡々と。落ち着いて。
 顔をだらしなく歪ませることなく、真摯な眼差しで。
 そして、どこか照れくさそうに。
 そんなサンジの言葉と態度で、彼の思いの深さが知れた。
 船を下り、子供が生まれるのを見守ろうとするくらいなのだ。一時期とは言え、己の夢を諦めてまで。そりゃあ愛が深くて当たり前だ。身体の一部なのでは無いかと思うくらいひっきりなしに吸っていた煙草を、子供のために止めるくらいだし。
 サンジの気持ちが「彼女」に向いている事は、考えなくても分かる。まっすぐに、「彼女」だけに向けられているのだろう事が。
「………ちっ!」
 自然と舌打ちが漏れた。苛立ちが抑えきれなくて。
 所構わず剣を振り回したい気分になった。
 剣を振らないまでも、重いバーベルを振って汗を掻きたかった。
 このわけの分からない苛立ちを霧散させるために、無性に身体を動かしたかった。
 身体を酷使したら、筋肉の悲鳴を聞けば、訳の分からない苛立ちが少し落ち着くような気がして。
 だが、それは何かから逃げる行為な気がして、思いとどまる。
 深く息を吐いた。訳も分からず乱れる心を落ち着けようと。
 だが、上手くいかない。
 そんな自分に舌打ちして、大股に歩を進めていく。船尾に向かって。
 辿り着いた船尾にドカリと腰を落とし、壁に背を預ける。ボンヤリと上げた視線に鮮やかに光り輝く月を捕らえて眉間に皺を刻み込んだゾロは、その月から視線を反らすように俯いた。
 深く息を吐き出し、俯けた瞳をゆっくりと閉じた。
 これ以上月を見たくなくて。
 そんな逃げるような行動を取る自分にも腹が立ったが、今は立ち向かっていく精神力がない。
「……何なんだよ………ったく」
 呻くように漏らして短い頭髪をバリバリとかき回した。
 もう一度深く息を吐き出し、床の上に寝ころぶ。何も考えずに寝てしまおうと思って。
 だけど、なかなか眠りが訪れない。いつもだったら横になったらすぐに眠れるのに。
 瞼の奥に金色の丸いモノがちらついて、眠りにつくことが出来ない。
 それでもゾロは、意地になって床の上に寝転がり続けた。ここで眠れなかったら負けるような気がして。
 何に負けるのかは、分からないけれど。
 それでもその何かに負けたくなくて、寝転がり続けた。
















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《20051210UP》


















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