油彩画の技法と特性
油彩画法は、ファン・アイク兄弟によって確率されて以来、今日に至る数百年の間に多くの変遷を重ねてきました。
今日においては、かつて画家自らが作っていた絵の具やキャンバスなのど諸材料は、すべて画材店で揃えることができるようになりました。
私たちが日頃気軽に使っている油絵諸材料、例えば、チューブに入った1本の絵具は、巨匠たちの知恵の積み重ねと絵画科学との結集であり、それを正しく使うことは表現を豊かにするうえで重要なことと思われます。
油絵具の特徴 油絵具が数百年もの長きにわたり変わらぬ人気を保ちつづけている秘訣の一つは、驚くほどの融通のきく描画材料で、実に様々な用途を持つ点にあります。そして、他の描画材料と大きく異なる特徴の一つは、色の鮮やかさと深みにあります。
油絵具の手応え十分な表現力は、乾燥がゆっくりな性質を活かして、一度塗った色でも後で修正がきき、画面上の位置をずらすように置き直せることによります。いったん乾いた絵具は、その上に重ね塗をしても何ら影響はなく、もとの色がにじむような心配はありません。つまり、何層にもおよぶ複雑なきわまりない絵具層を築けるわけで、そこから様々な効果がもたらされるのです。
絵の具は、顔料を練り合わせる媒材(メディウム)の違いによって、グァッ、シュ水彩、テンペラ、油絵具などの差異が生じます。グァッシュ、水彩ではアラビアゴムが、テンペラでは卵白媒材として用いられ、油絵の具では、顔料は輪シード油、ポピー油などで練り合わせられています。
油絵の具は絵画の材料としては、グァッシュ、水彩、テンペラなどに比べて、光や湿気に対して耐久性が強く、また、表現の巾も広い。したがって、ルネッサンス後期頃より徐々にテンペラにとってかわり、18世紀以後現代に至るまで欧米においてはほとんど絵画材料の本命とされてきました。わが国においては、明治初年にヨーロッパの描画技術の導入と共に使われだしました。
グリザイユ技法とカマイユ技法 グリザイユとよばれる白黒およびグレーによる単色画、カマイユ技法とよばれる白と褐色による単色画。これらはいずれもアンダーペインティングとして有彩色の下層描きに用いられてきました。
フランドルの画家たちにみられるアンダーペインティングとしてのグリザイユの多くの場合、テンペラ絵具の黒色で描かれている。例えば、ファン・アイクの「アルノルフィーニ夫妻の肖像」では、パネル上に塗布された白亜地の上に、ハイライトは下地の明るさを活かし、暗部はテンペラの黒のハッチングを密にし、中間を疎めにしてグラデーションを整えている。
一方、カマイユ技法については、例えばレオナルド・ダ・ビンチ「三王礼拝の図」では、明るい部分に石膏地の白さを活かし、暗い部分に褐色の濃淡をつけている。ティツィアーノなどべネツィア派の画家たちは画面全体に褐色の有色地塗りを行い、明るい部分を厚めのシルバーホワイトで描き起こしている。
このようにグリザイユ技法、カマイユ技法は、時代や画家によって異なっています。そもそもアンダーペインティングにおいては、グリザイユもカマイユもそれ自体で完成を目指すものではなく、有彩色が加わる前に、構成や明暗を決定するためのプロセスであり、マチエールを生み出すための一段階でもあります。
キャンバス もっともポピュラーな油彩の画面は麻か綿で、木枠に張った織物(画布)のことをキャンバスと呼びます。一般的には麻布が多く、画面には白い目止めの絵の具が塗ってあり、荒、中、細目、極細などがあります。 それ以外にキャンバスボードがありますが、これは安価な布に白絵具を塗って固いボードに膠づけしたもので、どの画材店でも売っています。
既に木枠にキャンバスを張った状態で売られているものは「張りキャンバス」、木枠には張られずに円筒に巻いて売っているものを「ロールキャンバス」と呼びます。
市販キャンバスには「油絵用」「アクリル用」「水彩用」という種類の違いもあります。
画筆 画筆は、丸型(ラウンド)、平筆(フラット)、平筆(フィルバート)の3種類の他、ファン(扇型)があります。
作品のどのあたりにどんな筆がふさわしいか、的確に判断し、選択していかなければなりません。大きな画面の絵を描くときや、インパスト、そして力感をねらう描法には、剛毛(豚毛)の筆を使います。単色にせよ、混色にせよ、広く塗りのばすのに便利です。
クリーム状に柔らかく練った絵具で細部を精密に描くには、セーブル(テン毛)もしくは化繊の軟毛筆を使用します。筆は使い込むうちに描き手の癖そのままにすり減ります。剛毛は豚。軟毛筆には、馬、牛、たぬき、テン(イタチ科)、ナイロン、マングースなどがあります。
パレットナイフ・ペンティングナイフ パレットナイフは、パレットを掃除したり、絵の具を混ぜ合わせたりするのに用います。
ペインティングナイフは、筆の代わりに用いたり、絵の具を盛り上げたり、あるいは絵の具を掻きとったりするのに用い、筆とは違った効果が得られます。
溶き油 市販されている油絵の具は、適度な練り具合でチューブ入りになっていますが、使用する際には、表現に応じて溶き油で軟めたり、流動的にしたりして、使いやすい濃度にします。
溶き油は、筆の滑りをよくしたりして、発色の輝きを助けたり、絵肌に変化を与えようとする目的で使われるのでありますが、練られた絵の具自体の性格を無視して、溶き油の使いすぎに注意しなければなりません。一般的に使われている溶き油は下記の通りです。
揮発性油・・・テレピン油、ペトロール
乾性油・・・リンシード油、ポピー油、パンドル