個人投資家のための原油取引入門』『個人投資家のためのガソリン・灯油取引入門』(パンローリング刊)の読者の方々、大変お待たせしました。ついに最新版を上梓することができました。
振り返れば、『ガソリン・灯油取引入門』が発刊された2002年6月からの3年余りの間に、石油市場に大きな変化が生じました。1バレル50ドルを超える「高止まり」状況が長らく続いています。石油在庫の減少報告やイラク情勢など、ささいなニュースにも市場は極めて敏感になり、旺盛な買いを招くようになりました。
価格チャートを見ると、長期上昇トレンドを描いていることがわかります。2004年10月、WTI原油は55ドルを突破、2005年7月には同原油が1バレル62ドル台に乗せるなど、原油価格の高値更新がしばしば新聞のトップ記事として報じられるようになりました。
そのような状況が今後もさらにエスカレートしそうな雰囲気の中、本書は新聞や経済誌などでは入手困難な石油市場の最新の内幕を投資家の視点から論じるとともに、新しい時代のマーケットパターンに対応し得る(と筆者が信じる)トレード手法例を紹介することにより、個人投資家を応援することを目的として書き下ろしたものです。本書は、第1部「激変の石油市場ファンダメンタルズ」、第2部「個人投資家のための石油トレード実践」の2部構成になっています。
第1部では石油市場を取り巻くファンダメンタルズ要因が、この数年でどのように変化しつつあるのかということについて、需要、供給、マネーの順に、7章構成で分析的に論じました。個人投資家にとって明解かつ深い理解が得られるように、最新のデータを数多くの図表に加工して、詳細に解説してあります。
第1部における共通のテーマは「オイルピーク」です。オイルピークとは、原油生産能力のピークのことであり、埋蔵量の半分を使い切った時点から、原油生産がピークに達し、その後は減少し始める現象で、別名「ハバートの法則」とも呼ばれています。
つい2〜3年前までは、市場関係者の間でもこの法則はあまり強く意識されませんでした。しかし、中国をはじめとする昨今の新興産業国の爆発的な石油需要の拡大に対し、これまでマメに供給を賄い続けてきた非OPEC産油国諸国の中にこのオイルピークが到来し、対応できなくなるケースが続出してきたのです。米国、イギリス、ノルウェー、カナダ、アルゼンチン、コロンビア、ベトナム、エジプト等々。非OPECの中にはロシアを筆頭とする旧ソ連諸国、ブラジル、スーダンなどのように、さらなる生産拡大を続けている国々もありますが、非OPEC生産量全体に占めるオイルピーク到達国は生産量シェアですでに4割に達し、10年以内に過半数を超えようとしています。 
原油生産といえば、OPECが主役というのが一般的なイメージです。しかし生産量においては、過去30年間にわたって供給の主役を演じてきたのは非OPECであり、そのシェアは6割に達しています。残りの4割がOPEC原油なのです。他方、埋蔵量シェアにおいては、非OPECが3分の1、OPECが3分の2となっているため、非OPECが先にオイルピークに到達するのは、避けられない状況です。以上が第4章までの展開です。
今後のOPECは、サウジアラビアをはじめとする中東OPEC産油国を核にして、その潜在能力を開発しながら原油生産を拡大していく使命を帯びているといえるでしょう。しかしながら、泥沼状態の続くイラク情勢をはじめとして、中東OPEC産油国にはさまざまな地政学的問題点やそのほかの疑問点が横たわっており、必ずしも安心できる状況ではありません。第5章はOPECの実力に関し、さまざまな裏話をモチーフとして論じます。
2005年4月、IMF(国際通貨基金)は経済白書の中で「石油市場は高止まりを続けるのか?(“Will the Oil Market Continue to Be Tight?”)」と題した、石油価格の長期予測を発表しました。この権威ある予測に潜む疑問点を指摘しつつ、投資家の視点に立ってそれらを補正した、筆者なりのシナリオを描いたものが第6章です。
第7章は、カリスマ投資家ジム・ロジャーズ氏を筆頭とする多くの機関投資家が、石油をはじめとする商品市場が長期の上昇基調にあるとの分析の下、商品市場を資金運用の場ととらえ、従来にはなかったインデックス(指数)型のファンドを通じて石油先物市場に買い参入し、長期にわたり保有することで高利回りを得ようとする資金が急増している現状を論じます。原油価格が大幅上昇するときには、株式市場が下落低迷する傾向があるため、石油市場は株式市場リスクに対するヘッジ(保険)の場となることについても言及しています。では、「トレードとは何か?」と題し、筆者が考えるトレードで勝つということの意味を、統計的な見地から述べています。その本質は、統計的に有利な手法の開発と、適切なマネーマネジメントの組み合わせにあると考えます。末尾に株式取引と商品取引の違いの要点をまとめてあります。
第9章は、前作『ガソリン・灯油取引入門』実践編の再検証です。第1部で取り上げたように、石油を取り巻くファンダメンタルズ条件は大きく変化しました。「価格高止まり+高価格変動率」という新しいトレード環境の中でリターンを上げていくには、時に従来の手法を見直し、取捨選択を行う必要があります。今回の石油市場の激変は、まさにそのタイミングであると痛感します。『ガソリン・灯油取引入門』の著者としては、読者に対して生き残った手法が何なのかを伝える責任があるとも感じて取り上げました。
第10章は、新しい石油環境を考慮した10の新手法の紹介です。本書の心臓ともいえる部分です。前作同様、統計的な分析を通じたシステム指向のトレード手法を中心に論じています。それに加え、本書ではディーラー的な手法の中からも、個人投資家に応用可能なものを3つ(手法8〜10)紹介しました。
第11章は、「ディーリングルームへようこそ」と題し、筆者が所属する三井物産フューチャーズ(株)ディーリング部をレポートします。プロのディーリングは個人投資家にはあまりなじみのない世界ですが、現在の市場においてますますプレゼンスを拡大しつつある、自己ディーラーの手法や発想を知り、個人投資家の自己ディーラーに対する優位性が何かを認識しておくことは有益でしょう。
第12章は、「個人投資家が知らない石油トレードの盲点」です。ファンダメンタルズの激変が、従来の石油チャートやサヤのパターンなどの統計的傾向に大きな変化をもたらしつつあります。その結果、手法およびその適用法や仕掛けのタイミングについても改善を余儀なくされています。過去の統計的傾向を信じてサヤ取りを行ったところ、損をしてしまったという話を随所に聞きます。本章は、読者には転ばぬ先の杖として知っておいてほしいことがらをQ&Aの形式で論じます。
第13章は、「マネーマネジメント」です。マネーマネジメントとは、ピラミッディングなどに代表される、増し玉のタイミングやポジション配分についての技術だと考えている人も多いでしょう。しかし、それらは裁量取引になじむマネーマネジメント法です。本書では、第10章との整合性を考慮し、システム売買指向のトレード手法にフィットしたマネーマネジメントを論じています。なお、本書の執筆にあたっては、その資料作成の過程において、ゴールドアクシス(株)島村登社長および楠瀬純三氏から国内市場データを提供していただきました。また第11章の新手法の一部については、三井物産フューチャーズ(株)ディーリング部の同僚である片岡俊博氏からの助言およびシミュレーション作業に協力していただました。
また本書の完成にあたっては、発行者であるマイルストーンズの細田聖一社長に装丁をはじめあらゆるプロセスで助力を賜りました。ここに記して御礼申し上げます。
本書が少しでも個人投資家のトレードの実践にお役に立つことを、願ってやみません。

2005年8月
渡邉勝方

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