「いつもながら、お賑やかな事で」
小さな窓に止まるカラスが喋っている。ん?、カラス?。
「ぬぁあああ、カラスが喋ったぁ?」
「小十郎っ、うるさい。」
すずめの見事なラリアート。すずめの腕を軸に一回転。ファイプロならクリティカルってトコだ。
「あれ、半助じゃないか。どうしたのこんなところまで。」
「はい、太郎坊さまより言付けを預かってきております。」
すずめに、半助と呼ばれたカラスは、羽の付け根から、くちばしで器用に探り、書簡とおぼしきモノを取り出す。
「おじいちゃんから、ボクに?。なんだろう?。」
「皆さまにも、それぞれに言付けが御座います。」
カラスは、器用に飛び回り、手紙を手渡していく。この半年、欲してやまなかった、沈黙がこれほど疎ましいとは思わなかった。妙な胸騒ぎを押さえきれず、大脳を介しない言葉が口から飛び出していく。
「どうした。じーさんたち、なんて言ってきたんだ。」
「戻ってこいだって。」
「あんずも。」
「私もです。」
まゆきは黙って頷いた。
「継承権の放棄の手続きみたいです。」
「じゃあ、準備が出来たんだ。でも、長かったね。」
「しかも、四人そろって言うのも、おかしくない?。」
それでも久しぶりの親からの便りに、疑惑よりも喜びが勝っているらしい。嬉々とした表情で語り合う姿に、一人取り残されたような寂しさを感じざるをえない。
「うーむ、半助さんとやら。俺には?。婆ちゃんからなんかないの。」
「いえ、特には。」
うう、寂しくなんかないやい。ばあちゃぁぁぁん、ぶわわっ(←我慢の男泣き)。
「ねぇ、半助。何でこんなに時間がかかったの。手続きはごく簡単なモノのハズだろ。」
「まぁ、その、なんと言いますか。なるべく早くすむように、下準備をしていたモノですから。」
どうにも歯切れが悪い。視線は虚ろだし。でも、すずめたちは納得したようだ。頭の中に、じいさんの言葉が甦る。
『なに、親ばか四人そろって、婿の取り合いじゃよ。聞かせたかったぞ、竜王と静氷殿の言い争い。それは見物じゃったわい。』
半助にすり寄り、脳裏に浮かんだ疑問を耳打ちする。
「なぁ、今度は、何を決めてたんだ?」
「いえ、まぁ、何というか。まぁ、和平調停と言うところですかね。」
「はあ?」
「まぁ、何というか、小十郎様の夜のお相手が一人になれば、初孫の誕生率が上がるわけでして。」
「なるほど、準備が早く終わっても、呼ばなかったのはそう言うわけ。」
「はい。四人がそろって、里にお戻りになられ、またそろってこちらに来られるようにと。平たく言うと、抜け駆けをさせまいという事です。それと、秘薬の調合に手間取りまして。」
「秘薬って、コレ?」
ようやく使い切った、媚薬やら精力剤の類が入っていた壺を、半助の目の前で振る。
「はい。森部でも最高峰の霊薬をご用意させていただきました。」
やっと、やっと使い切って、平和な夜が訪れると思ったのに。ああ、また、甘美な快楽に満ちた地獄の夜がやってくるのね。はらはらはら(←哀愁の男泣き)。
「若様にそこまでお喜びいただけるとは、半助もうれしゅう御座います。なにぶん、二十年ぶりに里に赤子の声が響くかと思うと・・・。」
「え?、んじゃ、すずめたちが一番若いの。」
「ええ、我々、物の怪は、出生率が極端にひくう御座いますから。後二百年は赤子を見ることはないと思っておりました。ぜひとも、朱雀様をご贔屓に。」
「なんで。」
「それはもう、娯楽の少ない里で御座いますから。男か女かはもちろん、どの部の姫君が最初におめでたとなるかまで。はい。」
俺はいったい・・・。俺の存在意義っていったい・・・。
「うわぁぁぁん、俺は種馬じゃないぃぃぃ。」
「小十郎っ、うるさいっ。」
「右回りっっっ」
徹し(古流骨法の奥義)のきいた、曲がり(フックぎみに撃ち込む掌打)によって、意味不明な俺の叫び声とともに、俺の体は、スケート選手も羨む空中四回転半ひねり。
「朱雀様、相変わらず、徹しの利いた良い掌打です。ただ、願わくはもう少し手加減なさいませ。いくら、頑丈な若様でもさすがにコレは・・・」
「そう思うんなら、手当してく・・・れ・・・」
「小十郎様っっっ」
ああ、まゆき。君だけだよ。君の膝枕は、いつも心地良い。心配してくれるのは。すずめはこの通りだしぃ。あんずはわがままだしぃ、那水は意外に嫉妬深いし。君だけだよ、まゆき。
「そんなっ、小十郎様。ぽっ(はあと)」
「お兄ちゃんっ、ひどぉいっっ。あんず、わがままなんか言ってないモン。そりゃあ・・・」
「小十郎にそんな風に思われていただなんて・・・」
「小十郎。いい加減、独り言を口に出す癖は直した方がいいよ。」
あんずは、泣きながら爪を研ぎ、那水は包丁を取り出した。すずめからは、オーラが、ほとばしる。頼みの綱のまゆきは、頬に手を当てたまま、内的世界にトリップ中。「そんな、そんな」と「やんやん」を17回繰り返したトコまでは確認できた。そっから先は闇の中。ああ、光が見えてきた、死んだ母さん元気かな。おれ、天国に行けるかなぁ。
「朱雀様、そろそろ時間の方が・・・」
「あ、そうだね。」
「そうそう、お時間が、ねっ。」
「お前には、言ってないっ」
はううう。
「小十郎。この件に付いては、戻ってから、しっかりと聞かせて貰います。」
「な、那水しゃん。目がマジなんですけどぉ。」
「返答次第では・・・」
めっきり那水の愛用になってしまった、我が家の包丁がキラリと光る。くっそぉ、店屋から身請けした恩も忘れやがって、主人を裏切って那水に付くとは。不届きな包丁だ。確かに、傷物だとか言って、値切ったが。
「あんずもっ」
明日の朝日は、拝めるのかなぁ。
「とにかく、ボクたちはいったん里に戻るけど。」
「浮気したら、分かってますわよね。」
「殺すよ。」
あんずちゃん、にこやかな顔でそんなことを言わないで。
「小十郎さま・・・」
あう、泣かれるのが一番ツライ。
「大丈夫だって。俺に浮気するほど、甲斐性があると思うか。」
言ってて、ちょっと虚しい。
「でしたら、四人も妻をめとることはなかったと思いますが・・・」
那水さん、キツイっス。
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