愛しの言霊
(Win/18禁/シルキーズ)

人の生は、うかめる泡のごとく、朝に夕に定めがたくとも、やがては立ち返って参りましょう
−丈部左門『新釈・雨月物語 菊花の契り(石川淳著)』


新生(再生?)シルキーズの第二弾(たぶん)。幽霊譚と言うこともあって、9月までの夏季限定生産だったのですが、まだまだ店頭在庫いっぱいありましたな。

さすがは、大手メーカー。そつのない作りをしております。シナリオ、システム共に、これと言った欠点もなく、良くまとまっています。反面ここが売りだ。と言う、決め手に欠けるのも事実ですが。

ゲームの難易度も、全体としては、低めでありながら難易度の高いキャラクターを用意していたり、妖怪退治によるペナルティー(一日浪費)とご褒美(CG)のバランスなど、よく考えられています。他キャラのシナリオの進行度の違いで、メッセージが微妙に異なったり、エンディングカットが異なったりと、細かいところまで、大変に良く作り込まれています。

敢えて、システムの欠点をあげるとすれば、理恵のメッセージが読みづらい事でしょうか。文字色の赤と服の赤が混じるので。あと右クリックでシステムメニュー出して欲しかった。「今日はもう休む」って、感じで翌日までのスキップも欲しかったかな。

シナリオは、そつなく作られているので、文句の付けようがありません(笑)。キャラクターの描写もしっかりとしていますし、ストーリーのテーマも良いです。かと言って、べた褒めできるほどの超A級作でも無いですが。

本当に良くできてるし、充分に楽しめたけど、面白かった?。と聞かれるとちょっと返答に困ってしまいます。そんな出来映え。綺麗にまとまりすぎてて、面白みに欠けるというか…地味なんですね。良くも悪くも特徴に欠けるというか。大きな山場もないし…

…例えるなら、フィニッシュホールドを持たない、中堅どころのレスラーと言った感じでしょうか。ルックスも、体格も良い、試合運びも上手い。でも、決め技が無いから、試合が盛り上がらないと言う…ケンドー・カ・シン状態?。飛びつき腕十字は、イマイチ盛り上がらない技だし(笑)。

オカルトシナリオが大好きな人なら、文句ナシで面白いでしょう。しかし、純粋なオカルトシナリオと言うより、綺譚めいた純愛物語。と言う方が的確。映画「ゴースト〜ニューヨークの幻〜」の様な感じです。幽霊を素材にした純愛物語です。

シルキーズの公式サイトにある「あなたにピッタリのキャラクターは誰?」と言うYes/noクイズ(?)で、私は梶原清美と出たのですが、そのかいあって、清美シナリオの最後は、ちょっとホロリと来てしまいました。こういうパターン、弱いよなぁ、俺…恋姫の「あんずトゥルーエンド」に通じるパターンだし…恋姫と言い、シルキーズには、この手のオカルトと言うか、幽霊/妖怪モノが好きな人がいるんでしょうかねぇ。

そう言えば、妙に細かいところにこだわった作りと言い、恋姫とちょっと似たスタンスかも知れません。さくさく解くと言うよりも、じっくりと世界に浸りながら、メッセージを読み込んでいくタイプ…と言うのも、よく似てますね。しかし、じっくりとやり込ませたいなら、もう少し、妖怪イベントは増やして欲しかったなぁ…吸血鬼ネタとか…猫娘とか…蛇女とか…あと、二、三匹分のハードコアエロスがあっても良いかと…メリジェーヌオチの妖怪エンドとかさ。

まぁ、久々にホロリと来たシナリオだったし、さんざん笑わせてもらったし、キャラ造形も良くできてるし(ねずみ娘萌え〜)、キャラ描写も上手いし、文章もしっかりとしているし、世界観もきっちりしている。本当に良くできている。十分楽しめたんですけど、今ひとつ、物足りなさを感じるのはなぜなんでしょう?。どうしても、お薦めの一品。と言い切ることが出来ないのは、決め手に欠けるせい?。それとも、私が、贅沢だからか、今の精神状態がもっと濃いモノを求めているからでしょうか?。

やはり、良くできているし、お気に入りだけど、強くは薦められない。と言う結論になりますね。機会があれば、やって欲しいとは思いますが。まぁ、逆に考えれば、薦めてみても良いかな。と思えるゲームだったことは確かですが。あと、余談ですが、ネズミのセリフ。特に「チュ〜、シチュ〜」とか聞くと、脳内で『恋愛CHU!』の主題歌がかかるのですが…誰か助けて下さい。


◆シナリオ解題でチュ〜。
単純に、40年も単独で存在できている蓉子や、10年も存在し続けている清美は、幽霊と言うよりも、精霊に近い存在になっていると思われます。通常、霊がその身を維持するためには、膨大なエネルギーが必要で、そのため手当たり次第に吸収を始めます。遭難した人が、泥水をも啜るがごとく、憎しみや妬みといった、負の感情を吸い取っていくために、どんな善霊も地上に長くとどまると悪霊になりやすい。

そのために、いち早い成仏を祈っているのです。悪霊になると輪廻が送れるからとか、不浄を浄めるために、天へ行けなくなるとか。宗派によって差違はありますが。40年も純粋さをキープできたのなら、それはもはや精霊であり、一種の土地神と言えましょうな。以降40年間、あの海岸で水難事故はなかったはずです(笑)。

彼女らが存在し続けられたのは、憎しみ、哀しみ、欲望、無念さに起因する力では無いからでしょう。が、他の霊が黙ってないでしょうね、それだけ強い力を持っていると。他の亡者に襲われるとか、他の霊を慰めていると言うイベントがあっても良かったかも…。

他サイトのレビューで「彼女たちの明るさは、自分の死を否定するが為」と言う考えをお持ちの方がいましたが、間違いではないと思います。が、私は、彼女たちの明るさは、その純粋さ故だと思います。憎しみにも、哀しみにも囚われることなく、存在を続ける。誰を恨む事もなく、自分を憎むこともしない、そんな彼女たちの純粋さが、彼女たちを存在させたのだと思います。

普通は、助けてくれなかった他人を恨み、我が身の不運を呪い、やがて生あるものすべてを憎むようになる事を考えれば…もはや菩薩に近いかも知れません。

薫は、自分の死を否定するため。と言うのは正解でしょうけどね。と、言うよりも、辛い現実に戻りたくない願望と、まだ死にたくないと言う想いが、幽霊という半端な状況にとどまらせたのだと思います…よもや、薫エンドのオチで議論になっていませんわな?。殆どの人は気が付いていると思うけど、病院での看護婦達の会話「8月に入院して、未だ意識が戻らない女の子」は、薫のことです。このことから推測するに、あの世へ行ったモノの、閻魔様に追い返された模様(笑)。

いやぁ、あの病院でのメッセージは、妖怪か理恵絡みのイベントだと思っていたので、ちょっとやられたって感じ。

ん〜だから、蓉子だけが守護霊に成れたのか。おお、深いわ…40年間、憎しみにとらわれることなく、純粋さを保ったからこそ、強力な験力を持つ術者の守護霊になれたのか…深いなぁ…通例、徳のある術者の守護は神仏が努めるモノなのです。


◆定番、オカルトチェックでチュ〜
時期的に、陰陽道ブームに火がつき始めた頃であったのに、敢えて仏教したところに好感。しかし、陰陽道にしてたら、もっと人気が出ていただろうかと考えたりもする。ともあれ、「極楽まんだら(F&C)」に続く、ゲームにおける二人目の仏教系主人公です。

まぁ、実際には、仏教ではお札はあまり使用しません。符術は、陰陽道の系譜、つまり道教魔術ですので。それよりかは、経文を読んだり、護摩を行ったり、施餓鬼をしたりするわけです。調伏といっても、相手を殺したり、滅したりするわけではなく、妄執から解脱させる。と言うのが、目的となります。つーか、調伏と言うより、降伏の方が正しいのですが。調伏は生きている人間に対して行うものですから。

かといって、仏教にお札が皆無と言う訳ではなく、天台宗では符呪の御技が伝わっています。これらは、日本伝播前の中国密教の段階で存在していたものです。日本に伝わってからも、陰陽道の影響などもあったようですが。見方によっては、曼陀羅や、写経した経文なんかも、呪符と言えなくもないですけど。

と言うわけで、符呪と真言を使う主人公の家は、天台宗系のお寺さんであることが分かりますね。でも、天台宗は国家守護とか、そう言った規模の大きい物の方が得意分野なのですけどね。

ともあれ、どんな宗教にとっても、幽霊、妖怪、魔怪と言ったものは、救うべき存在であって、退治(滅したり、殺したり)するべき存在ではありません。降伏も、聞く耳持たない連中を一度相手をうち倒しておいてから、教化するための手段ですので。力の信者であるが故に、自分より強い相手の言うことは必ず聞くというわけですね。

彼らは、妄執によって、自ら心を閉ざし、救われることを拒否している事に気が付いていない、哀れな存在なのです。ゲームや小説では、問答無用で滅したり、殺したりと言う物騒な宗教者が多いのでねぇ…マンガの「孔雀王」の影響でしょうかね(笑)。

ついでに言うと、読経や経文は、直接効果をもたらすものではなく、祈祷することで本尊にお願いしているわけですから、絵的には読経によって、天から救いの手がやってきて、対象を救済していく。と言った感じでしょうか。回向も漢字が示すとおり、本尊へ祈ることで、祈祷者から仏尊へ、仏尊から対象者へと、功徳を回し、功徳を対象者に向けているのですから。

その為、経文自体に力があるわけではなく、その言葉を読み、聞き、自らの仏性を悟ることに意味があるのです。教典を解釈できない霊には、効果がない。現世の人でもいるでしょう?。聞く耳持たないで、無意味なことをがなり立てる人。それを諭すのと同じ。だから、回向をするわけです。ぬ〜べぇの様に、敵に経文巻き付けても意味無いと思うな(笑)。曼陀羅ならともかく。

読経によって苦しむ。と言う状況の解釈は、バンパイアへの十字架攻撃に等しく、経文の内容を聞かされることで、己の罪を悟るから。と言うこともなんでしょう…たぶん…本来、経文は祈りの言葉であって、呪文ではないので、直接効力は無い。と言っても過言ではないのですが。もしくは、読経を聞きつけた御仏が、さ迷っている魂に何らかの影響を及ぼしているのかも知れませんが。

ともあれ、RPGっぽく言うなら、密教魔法は、召喚魔法なのです。諸天の加護を得るのですから。

…時にタイトルの『愛しの言霊』なんだけど…どういう意味だ?。言霊とは、発した言葉に魂が宿り、その発した言葉そのものが験力を持つ。と言う事で、愛しいも何も無いような気が…タイトルが一番重大なミス?(笑)



ゲーム攻略情報:ようやく、コンプリート!!






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