14、敗北
コクピットは、裏路地のディスコの様に、七色にきらめいている。
警告、損傷、警告。
モニターの光が、コクピットを絶え間なく塗り替えていく。ノイズが入り、かろうじて機能を保っているモニターを通じて、ドロシィの断末魔の叫び。こうまで俺は、カイムに頼り切っていたのか。
むせ返るような錆びた鉄の臭い。冷え切った鉄の棺桶に残るわずかな温もりだった血溜まりも、すぐに冷え切った死に神の手のひらに変わっていく。まぁ、いい。これで俺は人殺しをしなくても済むんだ。多少、ねとつくが死に神の手も良いものだ。
薄れゆく意識の中で、RGM79KEIのビームサーベルが振り下ろされるのを見ていた。
振り下ろされる死神の鎌は、中空で固まっている。きらめく刃を押しとどめているのは腕。ドロシィの腕だ。そんな・・・
確かめようと目を凝らすと、穴だらけになっていくKEIの姿が見える。KEIを捕らえる弾丸の一つ一つが見える。時の流れはどうなっちまったんだ?。
「生きているか?、ドロシィ」
アレード少佐の声とともに時間が動き出し、吹き出る血と痛みが、オレを暗闇の中に突き落とした。
宇宙世紀0079、12.25
展開されたミラーは、コロニーの川を思わせるほどに広く設置されていた。ミラー展開は98%終了し、後は細かい報告を待つだけだ。こうした待ち時間には、押し込めていた、あの日の記憶がわき起こる。
あの日、壊滅的なダメージを受けたアレード班とマーコス班は、併合され、新規の隊員を補充して再編成された。班長は、ソーン・オーガン少佐。
あの日生き残ったのは二人だけ。オレは作戦開始早々に、リタイアしてしまったわけだが、ソーンは見事にミッションをこなした。たった一人で。その報酬に昇進し、班を任された。オレもなぜか大尉にまで昇進し、副長を務めている。
「大尉、全てのミラーが定位置につきました。」
「了解した。宇宙空間なんて暗いトコに閉じこもっているから、選民思想なんて思いつくんだ。お日様の光でも浴びれば、やつらも考え直すだろうよ。」
軽口に誰からも反応はない。まぁ、いつものことだ。ソーンも含めて、感情表現は薄い連中だが、腕は立つ。つまるところ、特殊部隊に、九官鳥は一匹で良い。
「ソーラーシステム、発動準備良し」
「HQ了解、指示があるまで現状で哨戒を続けてくれ」
一斉にミラーが微調整をはじめ、焦点を絞り始める。オレは返事の代わりに、YOU ARE MY ONLY SUNSHINEを口ずさみながら、コンペイトウの様なソロモンへの突撃命令を待っていた。
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