1,他の部屋も探る。


他の部屋も、備え付けの家具が、全く同じ配置に置かれており、また、同じ部屋に入ったのかと、錯覚しそうになる。それほどまでに、個性も、生活感もない部屋からは、その部屋が使われていたかどうかでさえ、判断に苦しむ。

人間に近い人格を有すると言われているフォーロンバスのバイオドールでさえ、この殺風景さ。ならば、ジェネラルオーガニックのバイオドールは、いったいどういう生活をしているのだろうか?。いや、生活しているのだろうか?。1作戦ごとに生産され、使い捨てにされるのか?。

「たぶん、身体は使い捨てでしょうね。だからこそ、クレイマン所長は、記憶の移し替えの研究をしていたのだと思うわ。」
「なるほどな…兵士の使い捨てができれば、軍の上層部も思い切った愚作が乱用できるって訳だ…人権も、保障も、その後の救出作戦もいらない兵士。兵士を数字で捕らえている連中には、これ以上ない兵隊だろうな…」

「そうなれば、戦火は広がる一方ね…」
「ああ、兵力と人的資源を切り離せるとしたら、スペースノイドだけでなく、ルナリアンたちも独立を唱え…いや、地球連邦から、脱退する旧世紀の大国が現れるかも知れない。」

「ふふ、まるで私たちに地球の…地球圏の未来が掛かっているような話しね…」
他人事のように笑うアイリーンをとがめる事など出来ない。俺自身、全く実感がない。あくまで、可能性の話に過ぎない。ただ、笑い飛ばないだけの話しだ。

それに、この作戦を終了させても、おそらく、なにも変わらないだろう。マスコミにリークして、世論を煽るか、ジェネラルオーガニックの施設を破壊し、技術者を消去するかしなければ…

「これって、あなたよね?」
アイリーンが差し出した写真は、いまや懐かしいと叫んでしまうシロモノだった。何の記念に撮ったのかは、忘れてしまったアレード班の集合写真。アレード少佐、バレストラ大尉、ホーソン中尉、ローガーにラーナ。皆笑顔だ。

「楽しそうね」
「ああ、なにかの祝賀会だったと思うよ、みんなそれなりに酔ってるのさ。ローガーなんか、真っ赤な顔してる」
「ううん、説明しているあなたの顔が…とても楽しそうだった…みんな、良い人だったのね…」
「ああ、いいヤツらだったよ。」
「私も、もっと思い出を作っておけば良かった…」
「なぁに、これから作ればいいさ、海でも、山でも、宴会でも、どこでも連れていくよ」

アイリーンの意図とはずれている事は分かるが、これ以外の言い方は俺には思い浮かばなかった。
「ありがとう…約束だからね…」
無理して微笑んでいるが、あふれる涙は抑えきれない。だが、その涙は、悲しみだけが満ちているわけでは無さそうだ。

もう一度、写真に視線を落とす。この写真がここにある意味。マーコス少佐の言葉の意味。アレード少佐も、マーコス少佐同様、バイオドールを引き受けていたのだろう。写真の中で、笑う誰かが、バイオドールだったのだ。

不意に可笑しさがこみ上げてくる。誰がドールであるか、突き止める事に、何の意味があるのだろうか?。突き止めて、どうするのか?。裏切ったなと頬を張るのか?。大変だったねと、慰めるのか?。

大切な仲間だ。いつも通りに過ごすだけだ。

「どうしたの?」
不意にほくそ笑んだ俺を、怪訝に思ったアイリーンからの問い合わせ。
「なに、昔、バカやった事を思い出したのさ。ローガーと俺でな…」

俺の馬鹿話に、クスクスと笑うアイリーンを連れて、愛機に戻る。これが、車ならば、デートの迎えに来たと思えるのだが、乗り込むのはモビルスーツだ。

さぁ、行こう。そろそろ閉幕だ。

チェック
部隊の集合写真を持ち物にくわえる事。

1,コンピュータールームへ向かう。



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