1,ジーンの話しを聞く


「元々、その成果は、失敗の副産物だった様だね。実験中の事故で、とある女性の意識が、コンピューターの中に閉じこめられた。そして、不思議な事に、そのコンピューターのデータをコピーする事で、彼女の意識は拡大していった。」

「映画にしたら、きっと売れるぜ。」
「軍から、発禁喰らわなければね。信じがたいだろうが、事実だ。ジオンでは、コンピューターハードは、あまり研究されていなかったようだ。基本機動の制御だけやってればいい。と言うスタイルだった様だよ。ベテランパイロットが沢山いたジオンらしい発想とも言えるがね。」

「ジオンの科学者だったのか?」

「ああ、ジオンに見切りをつけた彼は、連邦へ亡命してきた。亡命時にドタバタしたらしいがね。」
「ドタバタ?」
亡命者の回収は、俺たちの主な仕事だった。思わず、眉間に力が入る。ジーンは気圧された事を悟られまいと、言葉を続けた。

「ああ、ジオンの追撃隊に捕まって、本来とは違う場所にシャトルが落ちた…とか言ってたな…」
まさか…そんな偶然など…だが、あまりに符合しすぎている。
「…その科学者の名は…クルスト…なのか?」

ジーンは、今度は本当に驚いたようだ。あざけるような驚愕ではなく、本当に意表をつかれた顔をしている。
「よく知っているな」
「そいつを助けるために、俺は部下を二人失った…」
「世間は狭いとはよく言ったものだ…それで、彼女は君を選んだのか…」
「どういう事だ?」

「僕の口からは言えないよ。言うべきじゃないし、言ってはいけない事だ。」

ジーンは軽く呼吸を整えると、今まで通りの冷淡な薄い笑みを浮かべた顔に戻った。今では、その表彰に嫌悪感は感じない。むしろ、冷静さを保とうと必死にあがいている哀れみすら感じる。

「課程はどうあれ、クルストは、生身の人間から、思考と記憶をコンピューターに移す事に成功した。サイココミュニケーターを利用して、ニュータイプのMS機動時の思考判断パターンの計測記録中に事故が起こり、彼女の思考はコンピューターの中に閉じこめられた。その人の意識を封じたコンピューターを、彼は、EXAMと呼んでいたな。」

「サイココミュニケーター?」
耳になれない言葉に、思わず問い返す。
「ああ、そうだね…乱暴な言い方をすると、思考波を電気信号に変換する装置。と言えばいいのかな…人間とコンピューターをつなぐ変換機のようなものだね。ともかくだ、事故の状況を記したデータ。事故当時と同じ機材がここに持ち込まれた。あとは、事故を再現するだけだ。実験体は、腐るほどあった。」

ジーンは、天を仰ぎ舞台俳優のように、大きな動きで訴えかける。

「ものの数週間で完成したらしいよ。思考をコンピューターに書き写すだけでなく、生体脳に、データを書き込む装置がね。君は出会ったかな…メカドールのエリスとルナ。生体脳から、機械脳への書き込み実験の結果。それが彼女たちさ。」

「まさか…メカドールの300番以降、性能が一新したのは…」
「そう、フォーロンバス重工の…EXAM技術が漏れたからだろうな。それを考えると、ダラス・マクダネルの草もいるのかも知れないね。ただ、ダラスは、そもそも軍の出資で作られた会社だ。ジェネラルオーガニックから筒抜けと考えた方が自然だね。」

アイリーンの震えは酷くなり、俺の腕を握りつぶさんばかりに、締め上げる。ジーンは、日記から目を上げ、俺を見る。まるで、人間そのものを哀れむような視線で。

1,ジーンの視線に耐える



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