1,持っているなら


「本来は、ヒュー。つまり、フォーロンバス製の戦闘用ドールと、ジェネラルオーガニックの戦闘用ドールの対決だったのさ。君たちも僕も、ただの添え物だったのさ」

恐怖と悲しみを追い払えたのか、ジーンは、突如冷静さを取り戻すと、話し始めた。

「実は、ヒューは、ソーン・オーガンを元に作られたバイオドールだ。公平を期すために、素体は同じ人物が使われる事になった。我々のバイオドールは、話したとおり、基本的には、クローンだ。ただ、コピーするだけでなく、遺伝子操作と記憶の焼き入れによって、強化する。」

「それでか…ヒューの顔を見たとき、どこかで見た気がしたのは…」
ポケットから写真を取りだし、ヒューを見る。たしかに、ソーンと似ている。兄弟といわれれば、誰しも納得するだろう。
「だが、クローンと言う程、似てないな…」

ジーンは、俺の問いには答えず、背を向けると講釈を続けた。
「ジェネラルオーガニックのドールは、厳密にはドールとは呼べない。人間を強化改造する、そう、強化人間とも言うべき存在だ。電極、薬品、催眠、そして記憶の焼き入れによって、脳改造をした成果が、ソーン・オーガンだ。」

「バカなっ。それは明らかに倫理に反するっ」

「僕が言うのもなんだが…コロニー落としや、毒ガスなんかよりは、マトモだと思うね。もっとも、スペースコロニーを本物のコロニー、植民地として扱い、事実上選挙権を行使させないようにしている連邦政府と比べればジオンは…いや、政治の話はよそう。」

スペースコロニーは、間違いなく、地球連邦政府の管轄にある。つまりは、スペースノイドも、間違いなく連邦市民。総人口で言えば、コロニーに住んでいる人間の方が、地球に住んでいる人間よりも遥かに多い。

だが、直接、コロニーから選出された連邦議員は存在しない。理由は、投票所が地球にしかないからだ。

「ともかくだ。人間と同等以上の人工生命を生み出すよりは、人間を改造する方が、いろんな意味で安全だと思ったのだろう。」

反対派の内務調査、政治家の保身、科学者たちの危惧。すべてが、バイオドール消去の方に動いたのだろう。人間よりも優れた存在を作りたかったケストナー博士は、その目的を達した。そして、博士は、生物の頂点に居座りたいと言う人間の本能に殺されたのだ。

「おそらく、僕たちが最後のバイオドールだ。無人MSの研究が続いたとして、バイオコンピューターが採用されたとしても、パーツ取りのために、作られるそれは、ただの有機物で、バイオドールではない。」

冷たい空気が、両肩に重くのし掛かる。

「ようやく分かったよ。僕は、生きた証を残したかったのだな。君が生き延びて、誰かに語り継ぐことで、僕の生きた証となる。口伝…そうだな、口伝だ。」

「最後に、教えてくれ、ジーン。俺の、アレード班に配属されたバイオドールとは、誰なんだ」

ジーンは微笑んだまま、その姿を消した。
まず誰かに引っ張られ、そして誰かに突き飛ばされた。薄れゆく意識の中で、ドロシィが崩れ落ちる音と、ジーンが粒子となって無産化していく姿をじっと見ていた。

1,目を覚ます



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