1,持っている


「本来は、ヒュー。つまり、フォーロンバス製の戦闘用ドールと、ジェネラルオーガニックの戦闘用ドールの対決だった。君たちも僕も、メカドールと同じ、ただの添え物だったのさ」

「俺が勝ち残ったのは、ずいぶんな番狂わせだったのだろうな…」

ジーンは、嘲笑とも、尊崇ともとれる微妙な微笑みを浮かべる。
「ああ、君たちが生き残ったのは、まさに予想外だったろうよ。AZALEAでさえ、その可能性を指摘しなかったほどだからね…バイオドールに勝てるのは、バイオドールだけ…そう思っていたよ」

そう、バイオドールに対抗できるのは、バイオドールだけのハズだ。記憶の底で凝り固まった、しこり。マーコス少佐が残した言葉が、内耳の中で囁き続け、疑惑をあおり立てていく。マーコス班にソーンがいたように、俺たちアレード班にも、バイオドールが配備されていたはずなのだ。

生体脳に、直接書き込める機械。つまり、記憶の植え込みが可能な機械。俺の知っている俺の経歴は、事実なのだろうか?。生き残っている俺が…

「実は、ヒューは、ソーン・オーガン…この名前が実名かどうかは知らないがね…彼を元に作られたバイオドールだ。公平を期すために、素体は同じ人物が使われる事になったのさ。我々フォーロンバスのバイオドールは、話したとおり、基本的には、クローンだ。ただ、コピーするだけでなく、遺伝子操作と記憶の焼き入れによって、強化する。」

「それでか…ヒューの顔を見たとき、どこかで見た気がしたのは…」
ポケットから写真を取りだし、ヒューを見る。たしかに、ソーンと似ている。兄弟といわれれば、誰しも納得するだろう。
「だが、クローンと言う程、似てないな…」

ジーンは、俺の問いには答えず、背を向けると講釈を続けた。
「ジェネラルオーガニックのドールは、厳密にはドールとは呼べない。人間を強化改造する、そう、強化人間とも言うべき存在だ。電極、薬品、催眠、そして記憶の焼き入れによって、脳改造をした成果が、ソーン・オーガンだ。」

「人の記憶とは、シナプスの連結パターンと言える。それを故意に、安全に作り出せるのならば、ある意味、メスを使わない脳改造装置となりえた。ただの人間をニュータイプに匹敵するパイロットに作り替える。雇用と社会福祉問題をも一気に解決できる妙案だったわけさ。」

「低所得者を徴用し、改造するとでも?。バカなっ。それは明らかに倫理に反するっ」

「倫理?。僕が言うのもなんだが…コロニー落としや、毒ガスなんかよりは、マトモだと思うね。もっとも、スペースコロニーを本物のコロニー、植民地として扱い、事実上選挙権を行使させないようにしている連邦政府と比べればジオンは…いや、政治の話はよそう。」

スペースコロニーは、間違いなく、地球連邦政府の管轄にある。つまりは、スペースノイドも、間違いなく連邦市民。総人口で言えば、コロニーに住んでいる人間の方が、地球に住んでいる人間よりも遥かに多い。

だが、直接コロニーから選出された連邦議員は存在しない。理由は、投票所が地球にしかないからだ。

1,ジーンと語る。



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