4,なにもしない
「やめて、ジーンっ」
アイリーンは既にM6901の銃口をジーンに向けている。重い拳銃にふらつく様子もなく、教本に載せたいようなな綺麗な射撃姿勢。
「お前は、なぜ戻ってきた?。お前に、その覚悟があるのか?。」
ジーンは構わず、ゆっくりと銃を抜き、構える。ジーンもまた、絵に描いたような美しい姿勢で狙いを付ける。銃口は、俺だ。
「覚悟があるなら、答えろ、………」
アイリーンの名を呼ぼうとしたであろうジーンは、そのまま崩れ落ちた。
「私は…私は、アイリーン。アイリーン・ケストナーよ…」
崩れ落ちるアイリーンに、なぜか近寄る事が出来なかった。
「自分の道を決めたのなら、自信を持って生きなさい」
ハニーブロンドの長髪の女性の、涼やかな怒声。アイリーンは疑うことなく、その女性の胸に顔を沈める。所長室で、モニター越しに出会った所員。Gセクションチーフのジェーン・ラディウスその人だ。
「ジェーン・ラディウスGセクションチーフですね。自分は…」
「ええ、そうです。所長室では失礼しました、中尉。」
機先を制せられ、二の句が継げなくなる。まるで、恋人の実家に初めて来たような感覚だ。何とも言えない沈黙が、辺りに重くのしかかる。
「全て…終わりましたね」
ジェーンは、誰に言う出もなく呟く。それは、アイリーンに語っているようでもあり、俺に問いかけているようでもあり、自分自身に言い聞かせているようでもある。
「これから、どうするつもりだ?」
俺の問いに、ジェーン・ラディウスは、寂しそうに笑った。
「アイリーン、言わなくちゃいけないことがあるでしょう?」
静かに諭す母親のような声に、アイリーンは、口を開きかけたが、また俯き、俺に背を向ける。
「それが、あなたの決断ならば、私は何も言いません。後悔だけはしないでね」
アイリーンを包み込むその姿は、どんな母親よりも愛情に満ちている。
「出口はあちらです。中尉。」
ジェーンが俺に向けた言葉は、同じ人間かと疑いたくなる程、冷たく事務的だった。質問を挟む隙間すら感じさせない。俺はただ、黙って、出口に向かうしかなかった。
1,外へ出る
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