1,アイリーンを抱きしめる


アイリーンの父親を呼ぶ声で、全てを理解した。おそらくケストナー博士は、娘を逃がすために犠牲となったのだろう。アイリーンは、父を失った悲しみと、大切な人を踏み台にして生き延びてしまった自分への嫌悪に押しつぶされそうになっている。カロンに姓名を告げなかったのも、もしかしたら自殺願望があったかからかも知れない。

その苦しさは痛いほど分かる。逃げ出したい、全てを終わらせたい気持ちも分かる。そこでうずくまって泣いているのは、アイリーン・ケストナーではなく、俺自身だ。守るべきはずの部下に庇われて、生き残った俺がそこにいる。

同情なのか、自己憐憫なのか分からない。気がつくとアイリーンを抱きしめていた。アイリーンも、声を殺すのをやめ、悲しみを声に変えて吐き出しはじめた。頭の中で、色んな言葉が過ぎる。「お父さんの分も生きるんだ」「お父さんのためにも生きなくては行けない」「俺たちは生きていても良いんだ」

だが、口から出たのはとても短い言葉。
「すまない・・・」
「どうして貴方が謝るの?」
驚くほどに冷たい気迫に満ちた問いかけ。とてもじゃないが不意に出た言葉だとは言えなかった。
「それは・・・バイオドールが・・・」

「やめてっ。違うわ。ヒューじゃないわ」
「ヒュー?」
「父さんを殺したのは・・・ここでは見たことのない型だったわ・・・」

どういうことだ、新型機と言う可能性もあるが・・・ここは、元々は無人機の研究実験所、新型MSの開発はやっていないはずだ・・・極秘裏に、と言うことも考えられるが、細かい可能性を考えれば、キリがない。アイリーンが嘘をついている・・・とは思えない。俺の知らない密命を受けた仲間がいると言うことか。

「どうにも、きな臭くなってきたな・・・」
アイリーンは、どこか哀しげな目で俺を見ている。バカか、俺は。これ以上、この娘を不安がらせてどうする。
「大丈夫さ、君だけでも無事に助け出すよ、きっとね」
哀しげなアイリーンの瞳に、光が戻った気がするのは、俺の独りよがりな思いこみだろうか?。とまどう俺をアイリーンは飽くことなく見つめていた。



1,アイリーンをドロシィに乗せる。
2,アイリーンを一番近いエレベーターへ向かわせる。



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