ティアラは十三歳の少女にしては、背は高めだが全体に線が細い。
実際、ランドレー夫人もティアラの変身ぶりに驚いた。
いかにも清楚で品があり、今日まで町暮らしだったとは思えない。
エンリックは、いつまでも娘に見とれている自分に気が付いて、急ぐようにティアラを伴って、部屋を出て行った。
その後ろ姿を呆然と見送る人影があった。
「いやはや、わからぬものだな。」
「まったく。生まれながらの姫君だ。」
レスター候とウォレス伯はさすがに姫の部屋へは入室できないので、、その場を立ち去ろうとしていたのだが、完全に遠ざかる前に扉の音がしたので、振り返った。
一瞬、自分達が迎えに行ったのはあの少女か、と目を見張る思いした。
エンリックが諦められなかったはずだ。
「きっと今頃は美人になってる。昔も可愛かったから。」
エンリックの口癖を思い出す。
彼の想像力は、単なる親馬鹿ではなく本当に的中したのだ。
黙ったまま、二人は宮殿内部の執務室へ戻りかけたところへ、一人の人物と出会った。
「レスター候、ウォレス伯。首尾はいかがであったか?」
タイニード伯が期待と不安が入り交ざった表情で尋ねてきた。
彼もまた王命によりティアラを捜していた一人だ。
最後まで自分自身で確かめに行くときかないエンリックを宥めるのに苦労したのである。
「ご安心ください。上首尾です。」
ウォレス伯が、笑みを浮かべて返答する。
もう、彼らが都中捜し回ることはない。
「やはり御本人であられたか。どのような御方なのだ。私が出向いたときにはお姿が見えなくて。」
「物見高くていらっしゃる。楽しみは取っておかれたほうがよろしいかと存じます。」
レスター候も笑いを含んだ声で、年長の貴族にやんわりと言い返す。
まだ正式に公表されていないティアラのことを国王の許可なしに話すわけにはいかない。
タイニード伯は不満そうだが、無理に聞きだすことはしなかった。
ただ、使者二人の様子から、さぞエンリックが喜んだであろうことを察した。
エンリックは慣れぬ格好で多少動きずらそうなティアラに合わせ、ゆっくりとした歩調で奥の庭先へと出た。
正面にあたる表側の花が咲き乱れる庭園とは趣がかなり違う。
木立と茂み、草花の多い花壇。蔦が絡まったテラスが一角にある。
「陽射しが強いな。こちらへ行こう。」
緑の濃い日陰の方へ足を向ける。
花壇のそばを通り過ぎようとした時、ふとティアラが歩みを止める。
さして珍しい花や植物があるわけではないが、何種類かのハーブの小さい花が並んでいる。
「ティアラ?」
「母が、前にハーブティーを淹れてくれたことがあります。こうやって庭のハーブを摘んで…」
何歳頃だろうか。