ルイーズはレスター候の気持ちを強く感じた。
自分自身の姿をあるがまま、受け入れようとしてしてくれている。
そんな風に言われた事は今までなかった。
それこそ、数多の貴婦人がひしめく都で、レスター候は視線の先をルイーズに向けたのだ。
「お転婆でどうしようもないと、後悔しますわ。」
「いたしません。貴女は地に足をつけて生きておられるだけでしょう。」
レスター候は決してルイーズの自由を束縛するつもりはない。
ルイーズも待っていたのだ。
自然な自分を認めてくれる人間を。
「おじさまに申し込んでいただけますか?」
「もちろんです。今日にでも。」
ルイーズがレスター候に抱きついた。
彼はいきなりのことで、バランスを崩しかけたが、そのままルイーズを両腕に抱きしめる。
周囲に人影がなかったことは、天の配剤に違いない。
タイニード伯は、
「折り入ってお願いしたいお話がありますので、今宵お伺いしてもよろしいですか。」
レスター候に常にもまして、かたい表情で言われ、特に予定もなかったので承知した。
邸に帰宅すれば、ルイーズから、
「大切なお話があります。後でお時間をいただけますか。」
こちらは普段より上機嫌だ。
今日は来客がある、とルイーズに言おうとした時、レスター候の来訪が告げられ、タイニード伯よりルイーズが先に出迎えに行く。
「私、今日、殿方に求婚されましたの。」
ルイーズが朗らかに振り返る。
タイニード伯は仰天して、ルイーズの後を追う。
「待ちなさい。今の話は本当か。」
玄関ではレスター候がすでに中へ入っていた。
ルイーズが駆け寄って、レスター候の腕を取る。
「お待ちしていましたわ。」
その有様を見て、タイニード伯は呆然としてしまった。
「おじさま、私レスター候から申し出を受けましたわ。」
レスター候が、丁寧に一礼する。
「その件でお伺いいたしました。タイニード伯。」
立ち話で済む問題ではない。
タイニード伯は、レスター候を応接間に通し、慌てて夫人を呼ぶ。
心の準備がまったく出来ていなかったタイニー度伯は、すっかり動転していた。
レスター候であれば、これ以上の良縁はないに違いないが、はたしてルイーズが侯爵夫人として務まるのだろうか。
ルイーズは正確にはタイニード伯の従姉妹の娘だ。
生家は爵位もない地方領主で都の貴族に見初められれば玉の輿である。
それを望まないではなかったが、よりによってレスター候とは。
「都ではタイニード伯が後見をなさっておられるとのことで、先にお話をしたく参りました。ルイーズ嬢のご両親には、改めまして挨拶に伺う所存です。」
「いいえ、それには及びません。近く都に来るとの事です。しかし…」
「反対でしょうか。私のように年が離れていては、ルイーズ嬢にふさわしくありませんか。」
レスター候とルイーズの間には十二の年齢の開きがある。
この事を気にしていたから、今までレスター候は自分の感情を素直に認められなかったのだ。