「年齢は関係ありません。世間にはもっと差のある夫婦もあります。ただ、ご存知の通りルイーズは侯爵家には程遠い家柄の出でありますから。」
「何をおっしゃいます。タイニード伯の縁戚ではありませんか。当家とて侯爵家になりましたのは、たかが数年前のことです。」
先代までは同じ伯爵家。
後見人であるタイニード伯が同格であれば問題ないとレスター候は思っている。
何しろエンリックの影響かどうか、近臣もあまり家格というものを気にしない者が多い。
だからこそルイーズも都に長く留まる気になったのだ。
「おじさま、私は勘当されても嫁ぐ覚悟ですわ。」
ルイーズの言葉に、話を聞いていたタイニード夫人が口を開いた。
「そのような事にはなりませんよ。ルイーズ。」
まるで駆け落ちでもしそうな気配であるが、先が侯爵家であっては、誰も反対しないだろう。
やがてルイーズの両親、カネック夫妻は三通の手紙を受け取り、愕然とする。
娘からの嬉々とした文章、タイニード伯の急ぎのあまり乱れた文字、レスター候からの丁寧できっちりとした文体。内容はどれも同じであったが。
こうして、あたふたとカネック夫妻は予定より早く都への出立を始めた。
どうやら愛娘は都でも話題に事欠かない存在になってしまったようだ。
正式に話が落ち着くまでは、とレスター候もルイーズも沈黙を守っていたが、女性特有の勘でマーガレット、エレン、ソフィアの三人はルイーズの様子から何かを感じ取った。
以前に増して、生き生きとした輝きを放っているルイーズは眩しいほどだ。
理由が明らかになったのは、間もなくのことである。
ルイーズの両親は、レスター候には何の不満もないのだが、娘が都で貴婦人として務まるかどうか心配していた。
レスター候としてはルイーズの行動力と大らかさに惹かれているのだから無用の懸念である。
ただ、タイニード伯を交えた話し合いの中で、彼の養女扱いで嫁ぐことになる。
「そのような事をなさらくても私は構いません。」
「いいえ、レスター候。家同士の格や釣り合いはある程度必要です。」
エンリックを始め、近臣達はこだわらないかもしれないが、一般の貴族達にはそうでない者もいる。
貴婦人の中にあっても、全員エレンやソフィアのような善良な人々だけとは限らない。
ルイーズ本人に落ち度がなくても、
「所詮は田舎者。」
などと陰口を立てられるかもしれない。
決して後ろ指や身に覚えのない恥をかかせたくない。
レスター候も心情を理解して、それ以上強いて反対をせず、ルイーズも渋々納得した。
都の貴族社会では彼女の考えが及ばない事が多々あるのだ。
「それよりレスター候のご親族の方は?」
タイニード伯がみるところ、レスター候は自分の縁者には誰にも相談しないで一人で話を進めている。
「大丈夫です。喜んでくれるに決まっています。」
レスター候は笑って応じた。
いつまでも独身でいるから、縁組を持ちかけられることもある。
特にエンリックがマーガレットを迎え、ウォレス伯がエレンと結婚してから勧められる話が増えてきた。
「この際、誰でも良いから。」
とまで言われているのだ。
レスター家の直系は彼だけだが、傍流が何家かある。
いざとなったら養子でも迎えればよいと思って、結婚に無関心だったふしもある。
タイニード伯の縁続きのルイーズであれば聞こえも悪くない。
両家が納得していれば、とやかく言う者もいないだろう。
公表の前にレスター候は、ウォレス伯とヘンリー卿に話を打ち明けた。
「人のことは急だと言っていたくせに。」
ウォレス伯に言われても、返す言葉がない。
相手がルイーズだと知ったヘンリー卿は、
(随分と物好きな。)
口には出さなかったが、親友とその婚約者に思いを抱いた。