ルイーズから話を聞いたティアラとマーガレットはもちろん、エレンとソフィアも祝福してくれた。
特にエレンはレスター候が夫の親友だけに、より一層親密な交流が出来ると喜んだ。
レスター候とタイニード伯の二人から打ち明けられたエンリックは、
「最近、何かと驚かされる事が多い。」
笑って婚約を了承した。
シェイデが国王だった時代、貴族同士の婚姻に目を光らせていたが、エンリックはそういうことをしない。
もし、レスター候とルイーズさえ愛し合っていれば、誰が反対してもエンリックが味方になってくれたに違いない。
本人達よりルイーズの親代わりのタイニード伯が乗り気で、実の娘が嫁ぐような気配である。
あまり大げさにする気はなかったレスター候は、どうしたものかと思ったが、結局は任せる事になりそうだ。
「おじさまが、そこまで体面を気にされる方とは思わなかったわ。」
ルイーズも困ったようだが、彼女のためを思ってのことなのでおとなしくしている。
ただ、レスター候もタイニード伯も国王の近臣とつながりが深い。
彼らを招待してしまうと腹心が不在になってしまう。
エンリックは慶事に遠慮はいらないと言い、フォスター卿が残留を申し出てくれた。
「しかし、いつもフォスター卿ばかりに迷惑はかけられない。」
「構いません。いつもお世話になっておりますから、レスター候。」
ウォレス伯は親友、ソフィアがルイーズと親交があるとなればストレイン伯も招かれる。
多くの重臣達も出席するのであれば、きっと当日は仕事にならないだろう。
ティアラは庭でもうすぐ咲きそうな花を確認して、エンリックに頼んで分けてもらうつもりだ。
ルイーズの結婚祝いに。
水仙、クロッカス、チューリップ。
一斉に咲き揃う頃には、ルイーズはレスター侯爵夫人になっているだろう。
ルイーズは結婚準備の合間には出仕して、王宮の奥で過ごしている。
仲の良い貴婦人達の会話は、家庭生活に入る前の参考にもなるからだ。
但し、彼女達の夫はエンリックも含め、皆、妻には弱いというより甘いので、どれだけ信憑性があるかは別だが。
女性に関して、まったく気の利かない親友を心配して、ヘンリー卿が色々と忠告してくれる。
ウォレス伯も自分の反省もあってか、何かとレスター候を気遣い、ストレイン伯までソフィアから聞いたらしい情報を提供してくれた。
もっともルイーズは積極性に富んでいるので、レスター候が多忙を理由に話が出来ないなどと言おうものなら、
「二人の将来のことですもの。二人で考えていただきたいですわ。」
職務が終わるまで待っていたりする。
マーガレットの出産前に長い休暇を取るのは気がひけるのだが、エンリックが許してくれそうにない。
エンリックはレスター候の婚約をかなり喜んでいる。
アドゥロウ大臣がエンリックに機嫌の良い理由を訪ねたら、
「レスター候のことを考えていた。」
と返すほどだ。
「ようやく身を固める気になったようですな。」
アドゥロウ大臣の言葉にエンリックは、一瞬表情を変えた。
「ああ、いや、現在のではなく、先代のレスター候だ。」
「ジーニス殿…」
「レスター候親子には、世話をかけてばかりだ。」
エンリックが王位に就いた時、父の代からの重臣で宮廷に残っていたのは、先代レスター候とアドゥロウ大臣くらいだ。
さすがに人望のある彼らを粛清する事はできなかったらしい。
宮内大臣の彼も、もう五十代。
要職にあるものの中では最年長だ。
「幸せになられるとよろしいですね。」
いつも自分の事は後回しにする真面目な性格は、確かに父親譲りだ。
エンリックとしても生き残った貴族の家系は存続させたいのである。