正式に公表する前に、マーガレットとも相談したかったので、目が覚めるのを待って部屋に行く。
「王子の名前、考えてくださいました?」
マーガレットも心待ちにしていたらしい。
思ったより気分が良さそうなので、安心する。
「ローレンスと名付けようと思う。」
「覚えやすい良い名ですわ。」
エンリックが迷った末に選んだ名だ。
異論をつけるつもりなど、マーガレットにあろうはずがない。
ティアラとサミュエルにも、
「ローレンスに決まったぞ!」
新しい弟の名を告げ、表へ向かう。
都中の貴族がぞくぞくと押し寄せる中、緊急会議が開かれる。
重臣達に皇太子の名が発表され、公布の準備に取り掛かる。
即日、ローレンスの誕生が国中に報じられ、十日後、その姿が王宮で披露された。
エンリックの腕に抱かれた、世継ぎの王子。
ダンラークの未来の象徴。
淡い金髪が、きらめいている。
大広間でもバルコニーでも眠っている時に連れ出したのだが、沸き起こる歓声で目を覚まし、それに負けない泣き声をあげ、さらなる人々の声を誘うのであった。
王子の誕生でエンリックの即位記念式典が武術大会になる事が発表されると、腕に覚えがある者達は我先にと申し込みが殺到した。
レスター候もウォレス伯もフォスター卿も、出場するつもりだと気付いたエンリックは、
「済まぬが一人にしてくれ。」
釘を刺すことになった。
三人一度に抜けられると準備が滞るというのは、建前の理由で騎士隊への遠慮もある。
だが、誰をというと指名もできない。
不公平にならないように、当人達で決めるというので任せる事にした。
運も実力の内ということで、カードで勝敗をつけたのだが、強運はフォスター卿にあった。
勝ちを逃がした二人は諦めざるを得ない。
「そのかわり審判をやってもらおう。」
エンリックが言ったのには第三者的な考え合っての事だ。
どうしても所属する人間に甘い点を付けたくなる者もいるかもしれない。
微妙な判断になった時、的確な判断が出来ると思ったからである。
帰宅後、
「あなたは出場なさるの?」
妻に訊ねられて、レスター候とウォレス伯は、共に首を横に振ることになる。
武術大会の話を聞いたサミュエルは興味津々で、目を輝かせていた。
「強い人がたくさん集まるのでしょう。きっとすごいです。」
「サミュエルにも見せてあげよう。当日を楽しみにしておいで。」
エンリックとサミュエルの会話を、ローレンスをあやしながら聞いていたマーガレットが口をはさんだ。
彼女は産後の肥立ちが肝心とたまにしか部屋から出られない。
それどころか、エンリックのいない間にベッドから起き出していようものなら、連れ戻される有様だ。
医師の許可を得た上でと、説得することも良くある。
「このような子供をよろしいのですか。晴れがましい場所にお連れいただいて。」
「何、祭りのようなものだ。一般席も数多く設けることだから構わぬ。大体、サミュエルは皇太子の兄だ。私の息子として同席しても不思議はあるまい。」
我が子が生まれても、エンリックのサミュエルに対する態度は変わらない。
それよりも誰もがローレンスにかまけて、サミュエルが一人にならないよう気にかけている。
同じ母の子を家族の中で差別したくないのだ。
公的には将来、立場も変わってくるかもしれないが、ローレンスと兄弟であることは事実だ。
ティアラも同じ考えらしく、二人の弟の面倒を交互によくみている。