生後間もないローレンスを家族で囲んでは、誰に似ているかと盛り上がる事もしばしばだ。
淡い金髪に、深い青の瞳。
眠っているか、泣いているかのどちらかが多いが、可愛らしい赤ん坊だ。
「ティアラの生まれた時によく似ている。」
父親としては性別の違いは気にならないらしいが、はたして言われた方はどう思うだろうか。
マーガレットにしてみれば、サミュエルが生まれた頃を思い出す。
サミュエルの薄茶の髪は父親譲りだが、顔立ちは母親似だ。
ローレンスが両親どちらにも似た部分を持ち合わせていれば、自然ティアラとサミュエルに面影が重なるのは親として当然かもしれない。
ティアラは修道院で子供の世話をしていたから、ローレンスの扱いも随分と慣れるのが早かったが、エンリックも思いの外、上手であった。
十四年前、ティアラの面倒を見た記憶が甦ってきたかのように。
お湯を使わせて、着替えさせて、寝かしつけてと、手際のよさはランドレー夫人も感心したほどだ。
ティアラを抱く手つきが危なっかしいフローリアに注意され、取り上げられないように気をつけた経験が役に立っている。
サミュエルもやってみたいのだが、彼の力では首の据わっていないローレンスを支えるのは難しいということで、抱かせてもらえない。
ルイーズとエレンとソフィアは間近でローレンスを見られる、数少ない外部の人間で、帰宅してから、夫達に様子を話す。
「あのような赤ちゃんが欲しいですわ。」
三人とも同じようなことを言って、夫を困らせた。
こればかりは神に祈るしかない。
暑さが静まり、季節が変わろうとすると、都中が武術大会の話で持ちきりになる。
血気にはやった者達が、街中で腕比べを始めたりするので、警備や見回りも増えた。
男達は武具の手入れに専念するが、女達はおしゃれに気を回す。
御前試合では貴婦人も観覧できる。
外出の機会があれば新しいドレスや宝石を誂える口実になる。
即位記念となれば特別の式典だからと、レスター候やウォレス伯も妻に服くらいはと思う。
ストレイン伯もだが、身を飾るのはドレスだけとは限らない事に考えが及ばないらしい。
エンリックは指輪以外、贈った事がないという彼らの話を聞いて、
「まったく宝石の一つくらい買ってやればよかろう。髪飾りとか首飾りとか、色々あるではないか。」
元々器量の良い妻を持っている夫達は、着飾らせるという事に気付かなかったらしい。
かくして、妻を伴い宝石商へ出向き、揃って鉢合わせになり、夫人達は楽しんでいるものの、三人の貴族は何ともバツの悪い思いをすることになった。
即位記念は三日間に分けて催される。
一日目は大広間での式典とバルコニーでの挨拶、もちろん庭園が開放される。
昼は園遊会、夜は舞踏会。
二日目は武術大会の予選、三日目が本選となり行事としては一番盛り上がる。
おかげで準備する側は大忙しで、目が回るほどだが。
感心にもフォスター卿は練習のために職務をないがしろにする事はなかったが、予選の数日前から後処理を免除された、
「本選に出る前に負けたら許さない。」
と、レスター候とウォレス伯に迫られたので。
武術大会は部門別に幾種類かに分かれて行なわれる。
参加者は自分の得意の種目で競い合える。
本選の当日は抜けるような青空が広がる秋晴れの日だった。
剣、弓、槍、それぞれの達人が次から次と現れる。
「フォスター卿はどれに参加していますの。お父様。」
「騎馬戦だ。今のところ勝っているよ。」
マーガレットは長時間、外にいられないとのことで観戦していなのだが、その分サミュエルが興奮して見物している。
ローレンスは時折、姿を見せる。
これは参加者と観客への心遣いだ。