決勝の最終戦は騎馬戦。
まさに武術大会の目玉だ。
将軍達は自重して、若い部下に花を持たせる意味もあり、参加していない者も多い。
「最後はフォスター卿が一騎打ちか。」
サロリィ将軍が観覧席から呟く。
本当なら近衛の代表だった、フォスター卿。
今一人は近衛ではない別の騎士隊の副隊長を務めている。
二人とも、鎧甲に身を固め、剣と盾を両手に持っている。
試合開始の合図。
武器と防具を持ち、騎馬で動き回れる事に、サミュエルは大変驚いていた。
激しい攻め合いは、見物であった。
受けて、はらって、打ち込んでと、お互い一歩も引かない。
防御より攻撃することに重点を置いた戦い方だ。
−これは時間がかかる。
審判たちはそう見て取った。
技量、体力ともどちらが優っているかは計りかねる。
ただ、勝者にはダンラーク一の勇者の名誉が与えられる。
相手に負けても恥にはならないが、譲る気は二人ともない。
「すごい!すごい!」
サミュエルは椅子から離れて見入っている。
ティアラは声も出ず、両手を握り締めたままだ。
エレンとソフィアははらはらしながら見続け、ルイーズは楽しんでいるようだ。
馬が駆け抜ける度、土埃が舞う。
必死の攻防の中、片方の手から盾が離れる。
それを見逃すフォスター卿であるはずがない。
隙を突かれたとはいえ、相手も体制を立て直すが、剣を振り払った後、攻め込まれた際、手綱が切り落とされる。
常人なら地面に叩き付けられる所を、着地したとはいえ、最後まで剣を手から離さなかったのはさすがだ。
「勝負、そこまで!」
一斉に審判が声を上げる。
頭上からフォスター卿が剣を突きつけた瞬間。
大歓声と拍手が沸き起こる。
「優勝者、フォスター・ベルボーン卿!」
判定が下された同時に、フォスター卿も地上に降り、甲を取った。
はしばみ色の髪が風に揺れる。
「両者とも、見事!」
エンリックが立ち上がっている。
主君の声に向かって、深く一礼する。
各部門決勝に勝ち残った者には、国王自ら表彰するために、高い観覧席から降りてくる。
一人一人に言葉をかけ、賞品が手渡される。
ティアラからは花束が贈呈される。
さらなる盛大な拍手が起こった。
試合後、フォスター卿にはサミュエルからも祝いを受けた。
「とても強かったです。僕もいつかあんな風になりたいです。」
「光栄です。サミュエル様。」
いつになく上気した顔のフォスター卿は心底、嬉しそうであった。
十周年記念にティアラとローレンスがいることだけでも、エンリックは満足この上なかった。
玉座に就いた時、祝ってくれる家族は、傍にいなかったので。
妻と娘と二人の息子。
喜びを分かち合える人間を得ている事こそ、記念すべきであった。