まるで人の話を聞いていないかのように、クラウドは物珍しげに、周囲を見渡し、
「カイル、いくらか持っているか。」
クラウドの視線の先に一軒の露店がある。
果物を売っているようだが、店先でジュースや食べやすい大きさに切り分けて、道行く人が気軽によってくる。
大人も子供も何人か集まって、美味しそうに食べたり飲んだりしている。
「王宮に行けばお茶を出していただけます。」
よりによって、買い食いなどさせられない。
しかも目的の場所に着く前に。
「知らない土地でうろうろしないでください。」
「うるさいな。お前は。」
クラウドはカイル卿を振り払うように歩き出した。
角を曲がって、路地に入る。
人の合間を見て走り出す。
すぐに追いつかれるだろうが、少しお目付役から離れていたかった。
いくつかの通りをすり抜けると、裏通り。
戸口や窓辺に植木鉢を置いている家が何軒もある。
いつの間にか人気も少なくなる。
そろそろ戻ろうと、後ろを振り返ると、息を切らしたカイル卿が立っている。
「一体、何を考えているのですか。」
「わかった。わかった。」
クラウドが路地を右に曲がろうとすると、
「そちらではありませんよ。」
二人並んで歩き始めたはよいが、似たような道が多い。
「ここは先程通りました。」
カイル卿もクラウドの後を追いかけて行くう内に、注意を払えなくなった。
もちろんクラウドは気の向くままであったから、道筋をろくに覚えていない。
「迷ったか。」
「呑気なことをおっしゃらないでください。」
こうなったら誰かに道を尋ねながら、戻るしかなさそうだ。
とにかく人のいる場所へ出ないと、袋小路で彷徨ってしまう。
広めの歩道に出たところで、三人連れの人影を見かけた。
相手も左右を見渡しながら歩く二人を挙動不審に思ったらしいが、一人が声をかけてきてくれた。
「どうかなさいましたか?」
品の良い顔立ちをした少女と大人の間、といった年頃の娘だ。
どうにか助かったと、カイル卿が話をする。
「実は道に迷ってしまいまして。」
「旅のお方ですね。お困りでしょう。どちらまで行かれるのですか。」
カイル卿とクラウドの様子から、都の人間でない事を悟ったらしい。
同行していたもう一人の婦人と従者らしい男が何か注意しているが、娘は聞き流している。
大通りに面した公園と説明すると、すぐにわかってくれた。
「私もそちらまで行く途中でしたの。」
娘は道案内を快く引き受けてくれた。
近道を通ったのか、クラウド達が遠回りしていたのか、さほど時間はかからなかった。
娘達は口数が少ないのか、警戒されているのか、あまり話もしないままだった。
やっと見覚えのある公園通りに出た時、馬車からも見つけてくれたらしい。
さぞ、やきもきしただろう。
「供の者とはぐれずにすんだようです。ありがとうございました。」
クラウドが礼を述べると、
「良い旅を続けてくださいね。」
娘も微笑んで挨拶を返し、別方向へ歩いていく。
どうやら彼女も近くで迎えの馬車が待っているらしい。
クラウドが急かされて馬車に乗り込もうとした時、娘の乗った馬車が動き出すのが目に入った。