封筒に手紙と一緒によく枯れてしまった草や花が入っていたのも、最近はきちんと薄紙に包まれたり、台紙に貼られたりしている。
 クラウドは庭園の草木の枝の葉や花を添えているつもりだったのだが、これまたカイル卿に見つかり注意された。
「押し花にされたり、箱や瓶に詰めるという発想はなされないのですか。」
 その手があったと、思い返す有様だ。
 クラウドにも、それとはなしに女性がいたことをカイル卿は知っている。
 いずれも長く続いた事はなかったが、原因はクラウドの性格かも知れないと悟った。
 ものにこだわらない気性なのだが、異性の目から見れば、実に大雑把に映ってもおかしくない。
 室内を見ても明らかだ。
 エンリックの部屋は調度の違いもあるだろうが、落ち着いた雰囲気がある。
 比べてクラウドの部屋の様子は、雑然とした印象を受ける。
 それでいて勝手に片付けると、
「ここに置いてあったのに、どこへやった。」
 怒る始末だ。
 クラウドの部屋のものを移動して、何も言われないのはビルマンとカイル卿くらいだろう。
「殿下。お身の回りも気をつけられた方がよろしいです。姫は几帳面な御方かとお見受けします。」
「別に散らかってないと思うが。」
 クラウドは慣れてしまっているせいか、気にならない。
「模様替えでもいたしましょうか。」
 すぐにティアラが嫁いで来るわけではないが、この際、部屋全体に手を加えてしまえば、クラウドの気分も変わることをカイル卿は願うのだった。

 晩秋に入ると、挙式の日程はようやく決まった。
 再来年の春頃、と聞いて、クラウドは愕然とする。
「そんなに待つのか!?もっと早くならないのか。」
「これでも随分切り詰めた日数です。」
 誰も機嫌の悪いクラウドに近寄りたくないので、カイル卿が説得にあたる。
 クラウドに関する面倒を処理するのも、側近の職務だ。
「どうしてだ。ダンラークはそれ程遠くにあるわけではないだろう。」
「準備には時間がかかります。」  
 クラウドはティアラ本人さえ来てくれれば構わないが、迎える側も送り出す側もそれなりの支度を整えなければならない。
 双方にとって国家行事なのだ。

 ちょうど、初冬に入る手前の時期、ダンラークではティアラに新しい弟が増えた。
 ローレンスはカトレアが生まれた時と違い、男のきょうだいで喜んでいる。
 アシューと名付けられた王子は、それはそれは元気に泣く赤ん坊であった。
 妻の出産と娘の結婚話とで、頭の中が飽和状態にあったエンリックは、ようやくティアラの件に専念できるようになった。
 しかし、事が進むのに時間がかかるのは、クラウドでなくても、うんざりする。
「そもそも、結婚式の手順は、このようにややこしいものなのか。」
 自国の臣下しかいない会議とはいえ、とんでもない事を言う。
「私は式というものを挙げたことがないから、よくわからぬ。」 
 これはエンリックに非があるわけでないと、皆、はたと気付いた。
 エンリックにとって実質上の結婚とは、二度とも式次第が省かれている。
 王位についてからは他者の結婚式に参列することもなく、直接見たわけではないから様子がおぼろげにしかつかめない。
 会議の終わった、その夜、エンリックは部屋に大切にしまってあったものを取り出した。
 感慨深げに一人で眺めていると、ティアラが訊ねてきた。
 多分、今日までに決定した事項を聞きにきたのだろう。
「お父様。何を御覧になっていらっしゃいますの。」
 エンリックはソファーの隣に、ティアラを座らせた。
「フローリアとの結婚の誓約書だ。証明書というのか、本当は。」