出産を終えたマーガレットは、ティアラのために色々と相談に乗ってくれた。
「準備を整えるだけで、一年など、すぐに経ってしまいますわ。むしろ短いくらいです。」
新調しなけtればならないものも数多くある。
送り迎えの形態や道中のことも含め、両方の国の高官達は頭を悩ませている。
お互い沽券に関わるから、どうしても規模が大きくなっていく。
当人同士とその親は、派手で大仰な事は好まないのだが、事が事だけに妥協できない面もある。
天井知らずに増えていく予算に、国王も人知れずため息をつく。
エンリックは何度となく変わる試案書に、財務大臣の元を訪れる。
ヴィッシュ大臣が音を上げないのであれば平気だろうが、心配にもなってくる。
「姫のご結婚のことはお見えになられた時から考えております。ご懸念は無用です。陛下。」
「しかし、ティアラを送り出した後、底をつくようでは困る。」
「そのような事態にはなりません。少しは私を信用なさってください。」
無論、信用はしているが、子供はティアラ一人ではない。
幸い、皆まだ小さいから何年か先でないと縁談もおこらないだろうが、下の子達は年が近い。
はたして、立て続けに慶事があれば、どうなるのか。
いざとなったら、王宮に眠っている宝物を売り払ってでも、何とかするしかないのだが。
エンリックの考えを知ったら、ヴィッシュ大臣は怒るか笑うかしただろう。
ティアラを迎えるドルフィシェ側も大掛かりだ。
特注の馬車やら街道の整備やらで、誰も彼もが忙しい。
王宮でもティアラが使う予定の部屋作りと一緒に、クラウドも自分の部屋を整理し始めた。
何故か二人の妹も率先して手伝っている。
母がいない分、年上の女性への憧憬もあるらしい。
相変わらず使者が行き来すれば、クラウドはティアラへの手紙も欠かさない。
ティアラは専用の入れ場所を決めて、大切に保管していた。
クラウドとの手紙の遣り取りの中で、ドルフィシェについての知識も身につけようとしている。
「宮廷作法はどこもたいしてかわりません。」
クラウドはそういっていたが、やはり違う部分もある。
一国の皇太子妃になるからには、きちんとその国の人間にならなければと、ティアラは真剣に思っているのだ。
ダンラークで過ごす最後の冬は忙しくても、楽しかった。
クリスマスには、ようやく言葉が通じるようになったカトレアと歩き始めたアシューが、クリスマスツリーをいたずらしてしまうので、下の方の飾りつけは後回しになった。
サミュエルは三人に増えてしまったやんちゃ盛りの弟妹の相手で手がたりない。
ティアラが嫁いだ後は自分がしっかりしなくてはと、今から自覚しているように思える。
エレンもルイーズもソフィアも、ティアラがドルフィシェのことに熱心だと聞けば、向こうの音楽や文学について話題を提供してくれた。
結婚後の夫への接し方は、マーガレットも含め様々だ。
妻に対して甘いことは、夫達の共通点であるが。
年が明けると同時に、双方の国とも、気分は春、である。
国民もどことなく浮き足立ってくる。
「宝石の姫」と謳われるティアラがダンラークからいなくなるのは寂しいが、隣国の皇太子妃としてならば、お目出度いこと、この上ない。
ドルフィシェとてクラウドがわざわざ他国で見初めるほどの姫とは、どのような女性なのかと心待ちにしている。
エンリックは、ある一日、ティアラの私室を訪れた。
十三の頃より、様相も少しずつ変わってきて、今ではティアラが過ごしやすい工夫が各所になされている。
「ティアラ。今度、二人で出かけよう。」
「お父様と二人でですか?」
「家族では別の機会をもちろん作る。行っておきたい場所がある。」
フローリアと過ごした思い出の地。