もちろん、ティアラへの興味もある。
何せ間近で顔を見ているものは、エンリック以外では、レスター候とウォレス伯しかいないのだ。
「皆にはいずれ紹介しよう。」
その言葉には、彼らは喜んだ。
エンリックは親の欲目もあるだろうが、使者の二人の貴族の様子からすると、中々の姫らしい。
延々と続くはずだった会議は思ったよりも、早く終わった。と、いうより打ち切られた。
宝石商と細工師が国王のお召しだというので、大急ぎでやってきたのだ。
さっさとエンリックが席を立ってしまったので、
−やれやれ
と、残された臣下達はそう思ったが、仕方ない。
書記に文書を作らせて執務室に届けたほうが、案件も早く片付きそうだ。
夜半まで深酒していたわりには、元気なエンリックを見て、ドペンス候とレスター候はひとまず安心した。
召し出した宝石商と細工師を通常の謁見の間ではなく、居室近くの部屋で対面したエンリックは、ある品を依頼した。
丁寧に、かつ迅速にとの注文は当然だが、承った人間は緊張の面持で宮殿を辞した。
仕立て屋にはティアラの採寸を先に頼んで会ったのだが、ふと自分の服も新調する気になった。
途端に財政が頭をよぎる。
これからは出費も嵩む。
一応、相談しようと、執務室に引き返す。
ヴィッシュ財務大臣とアドゥロウ宮内大臣は、快く返事をした。
「一着といわず、何着でもどうぞ。」
却って勧めたいくらいだ。
エンリックが浪費家でないのは喜ばしいが、それも必要に応じてのことである。
国王が新任の衛兵に不審がられるような服装など、もってのほかだ。
そんな時、エンリックと気付いた相手は、いつも真っ青になっている。
ティアラは部屋で仕立て屋とお針子に囲まれて困惑していた。
やっとのことで現れたエンリックに、これ以上服は要らないと、どうやって断ろうかと迷った。
ティアラの思惑をよそにエンリックはランドレー夫人と共に、いくつあるかわからない布地や型見本を手に取っている。
どこが違うのか、わかっているかどうか、知らないが。
「作ってあるものも手直ししないといけないな。そうすれば着られる服も増えるだろう。」
あれを全部だろうか。
ティアラは目の回る思いがした。
「いいえ。あの、来年は着られるかもしれません。」
まだ成長が止まるには、少し早い。
ランドレー夫人も仕立て屋もそれは知っている。
子供から大人へ変わる時期、ましては女性だ。
身体の線も変わっていくだろう。
「陛下、姫様が困っていらっしゃいますわ。」
ランドレー夫人が、エンリックにそっと注意する。
ティアラを見やると、確かにそのようだ。
寸法さえわかれば、見立てはランドレー夫人に任せても良い。
「それより陛下もいかがでございますか。」
ランドレー夫人にも、勧められ
「ああ、そのつもりだ。」
と、エンリックは答えた。
仕立て屋は、喜ぶと同時に驚いた。
普通、採寸から仮縫いまで手順があるのだが、エンリックの場合、以前に作った服を渡され、これと同じ寸法で、という感じなのだ。
色や型の好みは、「適当に選んで良い。」
の一言だ。