大聖堂では厳かに式が進行する。
誓いの言葉の後、二人が署名し、指輪を交換する。
誓いの口付けの際、ベールの下からティアラの顔が現れた時、ため息のような声が参列者から聞こえる。
クラウドは思わず、抱きしめる腕に力が入る。
正式にクラウドとティアラの二人は夫婦と認められたのであった。
大聖堂から、大きく一回り、新しく皇太子妃となったティアラと共に、街道を通り抜けて、王宮へとパレードとなる。
美しく着飾ったティアラに、歓喜と祝福の言葉と拍手が送られる。
「まあ、何てお美しい妃殿下だろう。」
「とてもお優しそうな御方だ。」
誰もがティアラを一目見て、魅了される。
花の季節に訪れた皇太子妃は、咲き誇る花々に優るかのようであった。
王宮でのバルコニーでの挨拶に現れた時も、熱狂的とも思える人々の歓声に、絶え間なく微笑むティアラがいた。
祝宴として開かれた舞踏会でもどよめきが響き渡る。
優美で気品ある皇太子妃の姿には、クラウドが是が非にと望んだ事に納得せざるを得ない。
−ドルフィシェに姫のような女性がいるものか−
実際、ティアラ以上の貴婦人は探そうにも見当もつかない。
クラウドは容姿だけでなく、ティアラの歌声と人柄に魅かれたのであるが、居合わせた人間は一目惚れだといっても、頷くだろう。
「お名前の如く、宝石のような妃殿下であらせられる。」
「ダンラークでは秘蔵の姫でいらっしゃたのも、わかるというもの。」
「無理もあるまい。良く我が国のお輿入れに手放す気になってくだされた。」
クラウドは何という果報者であろうかと、噂される。
「それに、あの宝冠。」
「殿下が特別にお作らせになったとか。」
「何でも父君からの宝冠に劣らないものをということらしい。」
ティアラ・サファイアの名の由来は、ドルフィシェの宮廷にも知れ渡るようになっていた。
エンリックが『至宝の姫』とまで呼んだ愛娘は、大手を振って迎えられたのである。
盛会の模様を見て、レスター候とウォレス伯も胸を撫で下ろす。
カイル卿が二人に一礼する。
互いに祝いの言葉を述べた後、
「今朝ほどはご無礼仕りました。」
苦笑しながら、カイル卿が詫びる。
花嫁行列の闖入者が花婿のクラウドであったとは、どう思われたか。
「姫は、いえ、妃殿下は喜んでいらっしゃいますから。」
レスター候が笑いを含んだ声で返答する。
驚かされたのは事実だが、それだけ想われているのだ。
ルイーズは随分と感心していた。
「情熱家ですこと。姫のご夫君は。」
この場にはエレンと共に、ティアラから遠くない席にいる。
ティアラを別格にしても、二人の貴婦人も注目を集める美しさがある。
ダンラークは美女の宝庫であろうかとも、勘違いされるかもしれない。
音楽が流れる中、人々の輪が広がっていく。
ビルマンに促されて、クラウドがティアラを誘う。
軽やかで優雅なこと、この上ない。
まるで春の女神が降臨したかのような印象を焼き付ける。
「待ち焦がれた。この日を。」
ティアラの手を取りながら、クラウドが言う。
「私、嬉しゅうございましたわ。お姿を拝見して、嫁いできて良かったと思いましたもの。」
婚礼の儀式を目の前にした皇太子としては、褒められた行動ではないにしろ、他を顧みず、自分を目指して来てくれたことが何よりも喜ばしかった。
以前と変わらない真っ直ぐな瞳と言葉。
それだけを信じてきて間違いではない。
ドルフィシェでクラウドが傍にいてさえくれれば、生きていけると、ティアラは思ったのである。