夜明けと共に、さらなる次代の世継ぎの王子は誕生した。
 ビルマンは元より、誰もが喜びに沸きかえった。
 メリッサとレジーナはしばらくたって起こされ、すやすや眠る赤ん坊を見た。
「おとなしくて可愛いわ。お姉様に似たのね。」
 という感想を述べた。

 王子の名前の付け方は人が聞いたら笑うだろう。
 前以て用意した名を一つずつ呼び、反応したものを採用した。
 最後までビルマンとクラウドが名付け親を譲らなかったため、息子に決めさせたのだ。
 こうしてマリッシュという名を王子はもらった。

 ティアラがベッドから起き上がれるようになって、大広間でマリッシュのお披露目となった。
 とうとう式典の間、ティアラの胸で眠ったまま目を覚まさなかったので、天使のような寝顔を人々に印象付けた。
「さすがに妃殿下の御子でいらっしゃる。」
 皆の褒め言葉なのだが、クラウドは何か引っかかる。
「まるで私に似たら騒がしいみたいだ。」
 ビルマンが呆れたように息子を見る。
 二十数年前、耳元で割れんばかりに大泣きしていた事を教えてやったほうが良いのだろうか、と。
 ティアラには泣こうが喚こうが、我が子である。
 母になった喜びとマリッシュへの愛おしさは日に日に大きくなる。
 ティアラは二十歳になっていた。

 クラウド・ティアラ夫妻の王子誕生の報に、エンリックは早速祝いの品を山ほど送り届けた。
 最初に男の子が生まれれば、この先、ティアラの立場も安泰だ。
 世継ぎを儲けることは、王家に嫁いだ女性の義務に等しい。
 遠方に嫁に出して、心のやすまらないことも多かったが、ようやく落ち着いた気になる。
「お幸せそうで良かったですわ。」
 マーガレットも母になったティアラを陰ながら案じていたのであった。
「そうだな。」
 エンリックも頷く。
 彼の愛娘と初孫はドルフィシェでも大切にされているだろう。

 マリッシュは毎日元気に泣き暮らしていた。
 なるべく自分の手で育てたいと、ティアラはなるべくマリッシュの世話をしている。
 クラウドは反対しない。
 ダンラークでどのように過ごしていたか、自分の目で見て、知っているからだ。
 何より、ティアラがマリッシュに子守歌を歌い聞かせている姿は、クラウドが望んだままの光景である。
 ゆりかごの側にティアラが座り、上から光が差し込む。
 マリッシュを見つめるティアラは、まさに聖母の微笑であった。

 子供のいる日々は一日を短く感じさせる。
 あっという間に夏も秋も通り過ぎてしまった。
 クリスマスの頃には離乳食の用意も始めるようになるだろう。