活気に溢れや声が聴こえてくる。
カーテンの向こうはもう人々で埋め尽くされている。
「行こう。ティアラ・サファイア。」
エンリックの差し出した手に、ティアラは受け取る。
管楽器が鳴り響き、大広間の人間が、皆、一斉に注目する。
国王と共に一人の少女が手を引かれ、入場してくる。
ティアラ・サファイアが正式に姿を現した瞬間であった。
「今は亡き
王妃フローリアとの我が姫、ティアラ・サファイア。今後、皆見知りおくように!」
エンリックの声が、大広間全体に通り、響き渡る。
ティアラが、一歩前に進み出て、軽く目礼を返す。決して頭を下げてはいけない。
本人には、ぎこちない動作であったように思えたが、見ている者にとっては、流麗で、いかにも気品に満ち溢れている。
沈黙は破れ、拍手と歓声が沸き起こり、二人は設えられた席に着く。
この場で明言されたことは二つ。
一つはティアラ・サファイアの認知。
そして、もう一つは、フローリアを「王妃」と呼んだことだ。
エンリックは生前に遡り、フローリアに王妃の称号を贈った。
書類上の手続きだが、感情だけでない意味がある。
これにより、ティアラ・サファイアは嫡出となり、エンリックの長女となる。
ダンラークにおいて、彼女より高位の女性は現時点において存在しない。
即位以前の庶子として扱うことなど、エンリックにできるわけがないのだ。
以後、公文書において、エンリックの王妃はフローリアと記されることになる。
「おめでとうございます。陛下。」
「心よりご祝福申し上げます。姫様。」
大勢の口々に発せられる言葉が、耳に響く。
ティアラを初めて見た人々の驚きは筆舌に尽くせぬようだ。
いくら国王の子であっても、所詮は王宮で育った姫。
着飾ったところで、高が知れようもの。
そんな考えを持つ者がいて、当然だ。
しかし、微塵に吹き飛んだことだろう。
ティアラを美姫と認めないのなら、はたしてどのような貴婦人をそう称するのだろう。
陽光を吸い取ったような金の髪、青く透明に輝く瞳。
すらりとして、年齢よりは大人びた、清楚で可憐な、美しい少女。
「まあ、なんてお美しい。」
「品位が伝わってくるようですわ。」
驚嘆の声は感嘆の声に変わり、称賛の言葉が飛び交う。
「国王陛下が大切になさるのも当然ですな。」
「まったく、今日まで隠しておかれるとは、お人の悪い。」
皆の関心は、ティアラ本人もだが、その頭上に輝く宝冠にもある。
「御覧になりまして、あのサファイアの宝冠。」
「本当に素晴らしいわ。」
この世にただ一つ、ティアラ・サファイアのためだけに作られた宝冠。
大小のサファイアに、王家の紋章が細かく彫られ、裏には名前が刻まれている。
持ち主は彼女一人ということだ。
音楽が流れ始め、少しずつ人々が動き出した。
目にしたことのない大人数から熱い視線が注がれるのを、ティアラは必死に堪えている。
ワルツのメロディーを聞いて、エンリックが立ち上がり、ティアラの前に行く。
「踊っていただけますか。姫君。」
椅子から離れ、ティアラは答える。
「はい。喜んで。陛下。」