報告を受けたエンリックは、
「二人とも、ご苦労!」
それだけ言うと、手筈が整ったかのように、早速、奥へと走り去ってしまった。
準備はこれからが大変だというのに。
しかし、ナッシェル夫人とは何者?
そう思う臣下も多い。
「姫の侍女として出仕されている方です。」
フォスター卿が他の人物の疑問に答えるが、それ以上の事は彼も知らない。
−何も子連れの未亡人を望まなくても
そういった感もある。
だが、この機会を逃したら、エンリックにいつ、そんな女性が現れるか、不明だ。
小うるさい後ろ盾がないだけましだ。
年齢的にも合うし、出産経験があるなら、健康上も問題ないだろう。
病弱では、困るのだから。
エンリックがティアラの部屋へ行った時には、すでにマーガレット夫人は帰り支度を済ませていた。
挨拶するために待っていたらしい。
「この次は正式に使者を遣わすから。」
「はい。」
「今度お会いする時はお母様とお呼びしますわ。」
ティアラも見送りの際、そう言った。
何分にも侍女として出仕していた者を、そのまま留め置くには外聞も悪い。
身辺整理もあるだろうし、迎えるにも用意がいる。
一度、侍女を辞し、王宮を退出させた後、エンリックの元へ来る事になる。
通常であれば、後宮へということになるが、エンリックとティアラの希望で、同じ一角に部屋を設える。
ただ、父の「再婚」が普通のものでないと知ったティアラは、
「どうしてですの。そのようなこと。」
マーガレット夫人に失礼ではないかと、エンリックに抗議した。
フローリアはすでになく、王妃の称号も贈られている以上、義理立てする必要も少ないだろう。
「色々事情もあるのだよ。ティアラ・サファイア。」
そう答えるエンリックに、ティアラは初めて権力者の一面を見たような気がした。
少女らしい潔癖さもあるのだろう。納得がいかない様子だ。
「家族として暮らすには変わりない。母と弟ができると思って良いのだから。」
エンリックが宥める。
まだ幼いティアラに理由を説明したところで、わかってもらえそうにない。
所詮、「大人の理屈」だ。
「お父様、あのお部屋使っていただいたら。」
エンリックがフローリアのために用意した部屋。
今でも、使用する者がいない。
だが、エンリックは首を振る。
「別の人間に準備したものを使わせるわけにはいかない。マーガレットには彼女のために別室を用意したい。一緒に内装を考えよう。サミュエルの分も。」
これにはティアラも頷いた。
確かにフローリアの影が残りすぎる。
「新しいお母様のお部屋は、クリーム色のカーテンにしましょう。お好きな色なの。」
どうやら娘の方が、父親よりも個人的な情報に精通しているようだ。
連日、ランドレー夫人に手伝ってもらい、ティアラは装飾品や調度品を揃える。
何の好みも知らないエンリックの意見はあまり必要ないらしい。
歓迎の気持ちを込めて、手芸にも精を出している。
「こちらがサミュエル坊やの分。こちらがマーガレット夫人の。」
楽しそうに、完成途中の作品を見せられた時には、思わず、
「私の分は?」
と、聞き返しそうになった。