明くる朝は、多少曇り空ではあったが、次第に陽が差し込んできた。
街中、いたるところで音楽や鈴の音が流れ、馬車とそりがひしめき、着飾った人々が行き交う。
目立たない服装で、王宮の門が開く直前に、ティアラとマーガレットがサミュエルを連れ、庭園へ向かう。
住んでいる者の特権だ。
エンリックは国民の前に姿を見せて、一言声をかけるのが通例になっているので、別行動だ。
大勢の中に紛れ込まれては、合流するのは無理な話である。
臣下達もエンリックが無茶を言い出さないか、はらはらしている。
一度に人が押し寄せる場所で、事故でも起きたら大変だ。
大体にして、あまりの人の多さで庭園の植物は少なからず被害がでて、庭師も忙しいし、後片付けは準備以上に骨が折れる。
だがエンリックが財政に特別予算を組ませてまで続けている行事だ。
貴族だけが集まるパーティーを中止しても、こちらを優先させるに違いない。
開門と同時に、人波が流れてくる。
増えてはいくが、閉門時間になるまで、人が引くことはありえない。
ある程度、人が庭園中に広がった頃合を見て、エンリックが国王として、庭園側のバルコニーに顔を出す。
歓声が上がる中、手を振って応える。
まるで王宮が揺らぐような勢いだ。
「三人は無事だろうか。」
一度、控えの間に入って不安そうに呟く。
間もなく、ティアラがランドレー夫人とやってきた。
急いで着替えたのか、少し息を切らしている。
「ちゃんとサミュエルは贈り物を手にしましたわ。」
もう少し長くいたかったのだが、帰り道がなくなってしまいそうなので、引き上げてきたのだという。
エンリックが人出の多さに心配していたので、わざわざ報告にきたらしい。
「そうか、良かった。」
エンリックがほっとした顔を見せ、ティアラの手を引く。
「せっかくここまで来たのだ。皆の前に顔を見せていきなさい。」
もう一度バルコニーに向かう気だ。
「私、このような格好ですわ。」
また夜までに着替えなければならないので、エンリックのように整った服装はしていない。
ごく、あっさりとしたドレスだから、並んで立つには気がひける。
「遠目ではわかるまい。平気だよ。皆も喜ぶだろう。」
その言葉で、ティアラは素直に従った。
これは王女としての務めでもある。
再びエンリックがティアラと共に出て来ると、一斉に更なる大歓声が沸く。
「ティアラ姫!」
「今度はお二人一緒だ!」
さすがに、バルコニーでは、冬の風にさらされるので、早々にティアラを奥へと戻す。
室内ならともかく、長く外にいられるほど厚着はしていないのだ。
エンリックも時間のある内に、一度、奥へ引き返す。
ゆっくりしていられないから、簡単なお茶の時間になる。
「これをいただいてきました。」
サミュエルが庭でもらった菓子袋を、エンリックに見せてくれる。
感心にも家族で食べようと、緑のリボンをほどかなかったらしい。
用意した菓子皿の上に、樅の木や星の型でくり抜かれたクッキーがあふれでる。
サミュエルが目を輝かせて手を伸ばし、ティアラは、
「可愛らしいわ。」
と、口に入れる前に眺めている。
似たような表情が、他でも見られているに違いない。
子供が笑顔になるなら、エンリックはささやかなプレゼントをやめないだろう。
今夜は夕食が遅くなるので、サミュエルは昼寝をさせられるために、ベッドに押し込まれる。
「良い子」でいないと、、サンタクロースが来ないので、おとなしい。
夕方にはエンリックが礼装を改める。
ティアラもマーガレットとランドレー夫人に手伝ってもらい、ドレスを着替える。