首にかけたナプキンを大して汚さず、料理をたいらげるサミュエルには感心するほどだ。
顔を見れば、味はきかなくてもわかる。
最後に出てきたケーキを食べながら、
「これは母上と姉上が作ったんだね。」
満面の笑みが広がる。
子供ながら、違いに気付いた。
せっかく四人で過ごすのだからと、ティアラとマーガレットが無理にせわしい厨房を使わせてもらった。
「忙しい時に大変だったろうに。」
エンリックが二人をねぎらう。
とうとう、一言も、
「もう、いらない。」
とは口に出さないまま、サミュエルはクリスマス・イブの晩餐を終えた。
さすがにお腹一杯になると眠くなったらしい。
それに早く寝ないと、靴下にプレゼントを入れてもらえない。
夜更かしをするような悪い子には、サンタクロースは来ない。
だから、誰も姿を見たことがないのだ。
雪がちらほらと窓に映る朝、サミュエルは枕元にぶら下げておいた靴下が膨らんでいることに大喜びする。
ティアラは、靴下を用意していなかったが、ベッド脇のテーブルに真新しい聖書が置いてあるのを見て、手に取る。
修道院にいた頃からの本が古くなって、傷み始めた事を知っているエンリックからの贈り物に、ティアラは心から感謝した。
居間に靴下ごと抱えて入ってきたサミュエルは、寝間着のままだった。
「ほら、こんなにたくさん!」
嬉しさのあまり、裸足で見せびらかしにきた息子に、マーガレットが驚く。
「サミュエル、何という格好で。ご挨拶もしないで。」
慌てて、手を引いて部屋へ連れ戻す。
「寒さも感じないくらい喜んでくれたのなら、ありがたい。」
エンリックがサミュエルの消えた扉を目で追いかける。
「気付かれなくて、よかったですわ。お父様。」
サミュエルの部屋で音を立てないよう、プレゼントを靴下につめていたサンタクロースはエンリックだ。
ティアラも、いつ部屋に入ってきたのか知らない。
エンリックに寝顔を見られたのかと思うと、それも恥ずかしい。
「残念だが見てないよ。」
年頃の娘の寝室には、さすがに枕元まで入れてもらえず、マーガレットがそっと置いてくるのを後ろから見ているだけだった。
灯りが弱すぎて、様子がはっきりとはわからなかった。
きちんと着替えを済ませたサミュエルを迎えて、朝食の席に着く。
早くプレゼントが見たいサミュエルは長く感じられた事だろう。
居間で二つの靴下を家族の目の前で、自慢気に披露する。
中身の一つはマフラーと帽子。
もう一つは木製の弓のおもちゃが入っている。
サミュエルは包みを広げて、目を輝かせている。
もちろん、家族からは別にある。
手袋と靴下はティアラとマーガレットの共同製作だ。
エンリックからは子供向けの騎士物語。
「ありがとうございます。……
父上。」
エンリックにとって、一番のクリスマスプレゼントは、この一言だった。
彼がサミュエルに「父上」と呼ばれたのは、初めてなのだ。
ティアラとマーガレットからのプレゼントは、当然嬉しかった。
毛糸のひざ掛けとクッション。カバーも手編みだ。
「ありがとう。二人とも。」
エンリックとサミュエルの分を、クリスマスの準備をしながら編み上げるには、手間もかかったに違いない。