結局、場所を移して暖炉の前に集まる。
嵐が収まるまで動けないのは、皆同じなのだ。
「すまぬな。こんな所で夜を過ごす事になって。三人だけなら戻れただろうに。」
エンリックは自分が足手まといになったと責任を感じていた。
かなり無茶をしたとはいえ、サミュエルが行き来したのなら、道がなくなる前にレスター候もフォスター卿も帰れたはず。
「いいえ。天候が崩れる前に引き返すべきだったのです。こちらこそ気が付きませず、申し訳ございませんでした。」
レスター候も、これほど早く嵐になるとは思ってもみなかった。
大体、エンリックを野外で夜明かしさせるつもりなど、あるはずがない。
「足止めされたと思わなければ、面白いものだ。」
元々、外にいるのがエンリックは好きだ。
森へ家族でピクニックに行こうものなら、陽が暮れるどころか沈んでも王宮に戻ってこない。
夢中になって遊んでいるのは、子供達かエンリックかはたしてどちらか。
供も連れずに街中を歩かれるより、はるかにましではあるが。
四人できれいに皮を剥いた野菜は鍋一杯のスープになった。
官舎暮らしだったフォスター卿、マーガレットやティアラの手伝いをして育ったサミュエル、地方でフローリアと住んでいたエンリックはともかく、生粋の貴族で都育ちのはずのレスター候もかなり器用だ。
「昔は野外で食事などよくありましたから。」
幼馴染で親友のウォレス伯やヘンリー卿と共に遠乗りや狩りに出かけては、自分達で食料をその場で調達した。
まだレスター家が伯爵家だった頃の話だ。
「勝手に酒蔵からワインを持ち出して怒られました。」
三人で樽ごと担ぎ出した時には、さすがに大目には見てもらえなかったことを思い出す。
温和な為人で人望篤かった先代はエンリックにも懐かしい。
エンリック自身、父の記憶は希薄になりつつあるが、サミュエルは肖像画以外、実父の顔もろくに覚えてないらしい。
唯一、薄茶の髪が形見だ。
夜更けまで話し込んでいる内、うとうと眠り込んだのはサミュエルだった。
酔いが回ったのもあるが、疲れも出たのだろう。
「この子の寝顔なんて、何年ぶりか。」
エンリックが呟いた。
引き取った当初、中々「父上」と呼んでもらえず、落ち込んだことが頭をよぎる。
成長と共にいつしか「陛下」に戻り、家族の前でも「父上」と呼ばなくなった。
「ろくに甘えてもくれないで、大きくなってしまったな。」
エンリックがサミュエルの横顔を見つつ、寂しげな微笑を浮べる。
学校に通わせず王宮で学ばせたのも、手元で育てたかったからだ。
「ちゃんと陛下を慕っておられます。」
フォスター卿がエンリックに言った。
サミュエルの武術指南を始めた頃、
「もっと馬に慣れたら、一緒に遠乗りに行くんです。」
楽しそうに話していた。
当時、サミュエルはエンリックが乗馬を含め武術全般不得手であることに知らなかったのだ。
そうと気付いてからは、
「僕がお守りできるようになります。」
と、言い始めた。
「陛下に褒めていただくのが、嬉しかったようです。」
レスター候も時々サミュエルの相手をしていたから覚えている。
「もしや武術指南を申し出たのは、差し出がましい事だったのではないかと思ったこともあります。」
「結果的には良かった。私では教えるのではなく、ただ遊んでるだけになってしまう。」
正式に教育係が決まるまで、サミュエルはほとんど家族と過ごしてきたといっていい。
エンリックが自分で勉強を見ようとしたのも、一緒に過ごす時間が欲しかったし、早くに子供達が生まれたせいもあって、マーガレットとティアラの手がかかりきりになったこともある。