近隣並ぶものなしといわれるドルフィシェ。
 だが国王が自国の姿を知らなくては、どうにもならない。
 クラウドは都合の悪いことを隠して伝える宮廷内部の貴族では、あてにできないと感じている。
 もっと自由な目と耳を持つ者を探していたのだ。

 グラハムは本来の生業とは外れた意味ではあるが、必要とされるのも悪くない。
 どうせ冬ごもりするつもりでドルフィシェにいるのなら、その間だけでも面白そうである。
 宮廷の内側を覗ける機会など、これを逃がしたらいつくるか。
 思い切って、短期間でもよければと、クラウドに申し出たら、
「それでも構わぬ。」
 とあっさり承諾してくれた。
「そうだな。酒場の代金を全部肩代わりするという条件ではどうか。グラハムの家は酒場なのだろう。」
「別に住んでいるわけではありません。」
「本当なら美女もつけてやりたいが、ティアラの耳に入ると困るから、自分で探してくれ。」
 ティアラほどの女性を妻に持てば、クラウドの目が他に向かないのも無理はない。
 グラハムも一夜限りの相手は、当分諦める事にした。
 できればティアラの心証を傷つけたくない。
「しかし陛下が勝手に決められて、他の方々は平気なのですか?」
 一応、グラハムはクラウドの立場を心配した。
 先々、臣下ともめることがあるかもしれない。
「黙らせるさ。そのくらいの権限は私にもある。自分の地位を棒に振ってまで、諫言する者など、ろくにいるものか。」
 国王となったクラウドに面と向かって注進に及ぶのは、カイルくらいしかいないのだ。

 こうしてグラハムは王宮に出入りするようになったのだが、中に入ってみると複雑な人間関係が絡み合っていて、余所者の立場では妙におかしい。
 皆、一様にもったいぶった官職名を名乗っているが、やっていることは利権を漁る商人と変わりがない。
 単に場所と扱うものが違うだけで、欲に駆られた人間の考えていることは、身分には関係ないらしい。
 味を占めたグラハムが、一年の半分は商人、半分は宮廷に仕えることになる。

 かくして商人上がりのグラハムが正式にドルフィシェの宮廷顧問となったことは、画期的な出来事として史書にも記される。
 自由な発想を持った臣下がクラウドの周囲に集まり始めるのは、もう少し先の話である。
 機転の利く王としてクラウドの伝記が詳しく語られる書物が、後世残った。
 港の様子から王宮内まで、独特の視点で書かれ、多彩な人物が登場する。
 『人生歩けば、得をする』
 作者はグラハム・デニソンである。

                               <完>


           


 旅商人グラハム、しいては庶民の目からみた二つの国の違いを書いてみました。
 クラウドは悩める王様のようです。(笑)
 本編で流してしまった分、長い番外編に。
 少しでもドルフィシェの様子が伝わればいいなと思います。
 住むならダンラークかドルフィシェか、皆様はどちらがよろしいですか♪