エンリック自身はともかく、同行の二人が不安なので、町に着いて宿屋を探す前に武具屋に直行することにした。
 どうせいらないというに決まってるからエンリックを外に待たせて、店内から出てくれば、姿が見えない。
 慌てた矢先、ジェフドが向かいの酒場に数人の男達とテーブルを囲んでいるのを見つけた。
 さては賭博のカモに狙われたかと店に飛び込むと、エンリックの前には散ばったカードと銅貨や銀貨が山になっている。
「連れが帰ってきたから、失礼。おかげで退屈しないで済んだ。これは礼ということで。」
 半分ほど残して、席をたった。
 さっさと店をでたところで、クラウドが
「一体、何やってるんですか。」
「ちょっとカードに誘われて。金はないって言ったんだけど。」
 あっけらかんとエンリックは答えた。
「おかげで宿代くらい稼げた。」
 声をかけた相手にしてみれば、とんだ目論見違いである。
「もしかして強いんですか?」
 遠慮がちにジェフドが聞くと、
「わりと得意なんだ。」
 エンリックは笑いながら言った。
 子供の頃から室内で過ごす事が多く、ろくに趣味もないエンリックが時間潰しに出来ることといえば、カードやチェス。
 この方面はそこそこ負けないというより、実は勝負強かったりする。
 案外、駆け引きが上手なのだ。
(そうだ、食えない性格だった。)
 クラウドは今更ながら思い出し、ジェフドは
(伊達に二十年以上玉座にいるわけじゃないんだ。)
 妙に納得した。
 外見で判断したら、クラウドはともかくジェフドだって服をかえれば、強いどころか騎士にさえみえないという点では同類だ。
「とにかく、これは持つだけ持っておいてください。」
 クラウドが購入したばかりの短剣を渡す。
 女性でも護身用に持っていそうな物で、それほど重くない。
 渋々受け取ったエンリックが、荷物の奥に入れようとするので、ジェフドが
「しまって、どうするんですか。」 
 ため息まじりに止めた。
 とりあえず身につけていなければ、何の役にも立たないではないか…。


 いくつか村や町を転々としていけば、宿ではなく野外で過ごす事も多くなる。
 人に気兼ねすることなく、慣れれば楽しい。
 時々クラウドやジェフドが獲物を狩ってくるので、食事にも不自由しない。
 弓も達者な二人は必ず何か獲って帰ってくる。
「二人ともすごいなー。」
 エンリックはおとなしく火の番をしてるか、食用になる木や草の実を探しに行くか、何かの下ごしらえをしているかである。
 薄くむかれた野菜や果物の皮を見て、
「本当に剣も弓も使えないんですか。」
 クラウドが訊ねた。
 少なくとも手先は器用そうだ。
「う〜ん。動かない的なら、矢が当たるかも。」
「旅の間にお教えしますよ。」
 ジェフドもそう言ってくれるのだが、
「無駄だと思うけど。」 
 本人にまったくやる気なしである。
 自信なさそうなエンリックの顔に、
「まさか馬にも乗れないってことは…。」
 ジェフドが口を滑らした。
 さすがにエンリックが不愉快な表情をする。
「失敬な!私だって乗馬くらいできる。」
 もっとも早駆けが得意ではないから、威張れる程度のものではない。
 仮に三人で遠乗りしたら、置いていかれるだろう。