「カルトアのジェフド六世王とテイト・ワード卿。妻のティアラ・サファイア。」
 クラウドがお互いを紹介している間に、子供達がエンリックとサミュエルに挨拶する声が聞こえた。
「御機嫌よう。おじいさま。サミュエル叔父様。」
 ジェフドは今更ながら驚いた。
「おじいさま…!?」
 ティアラの子はエンリックには孫だから、当然なのだが、やはり違和感がある。
 もちろんジェフドにも礼儀正しく挨拶を返してきてくれた。
 だが、その後耳に届いたのは。
「父上のお友達、母上と同じくらい綺麗だね。」
 一緒にいたクラウドとエンリックが、困惑して
「子供のいうことなので、気になさらずに。」
 とりなすしかなかった。
「まあ、慣れてますから。」
 つい苦笑して答える。
 美しくて優しい自慢の母と同じくらいというなら、褒め言葉だろう。
(せめて髪伸ばすのをやめてくださればよいのに。)
 テイトは胸中で呟いた。

 ジェフドの趣味が竪琴だというので、ティアラがぜひにと聴きたがった。
 夫や父と違い、音楽の話が出来る相手がいて嬉しいらしい。
「とても素敵な曲をたくさん知っていらっしゃいますのね。カルトアに伝わるものですか。」
「はい。今のは、子守歌です。」
「私にも教えていただけますか。」
「喜んで。」
 いつの間にか、お互いの国の子守歌の話になってしまった。
 自分の子供達に歌って聞かせるつもりだろう。
 
 数日後、ドルフィシェからカルトアへ向けて出航する船があった。
 諸国歴訪という名目で、クラウドもエンリックも一緒だ。
 当然、カイルとサミュエルも付いてくる。
 すぐダンラークに行かないのは、船旅がしたいと理由である。
 どうせなら港町が見たい。
 海に浮かぶ船の数、押し寄せる人、波止場に置かれた荷物。
「さすがドルフィシェだな。」
 エンリックが周囲の様子に感嘆を漏らす。
 ひしめき合う商業港。
 他の追随を許さないドルフィシェの繁栄の根源がここにある。
 夜は夜で賑やかなのだが、お目付け役がいてはクラウドも案内できない。
 幸い、船酔いするような人間もおらず、無事カルトアに到着した。
 
 戦乱の後というには、エンリックやクラウドが想像していたより落ち着いた雰囲気である。
「都まで攻められずに済んだから。」
 国の中心への侵攻を許さなかった陰には、短期終結に持ち込んだジェフドの策があった。
 長引けば、不利になる。
 それだけ厳しい状況の中で生き延びたのだ。
 本当に国を失う怖さを知っているのは、三人の王の中でジェフドだけかもしれない。

 城で待っていたサラティーヌに会い、エンリックとクラウドは
(こんなたおやかそうな女性がよく旅についてまわったものだ。)
 と、改めて感心する。
「この度は夫がお世話になりました。」
 と丁寧な言葉をかけられたが、逆である。
 世話になったのは、彼らの方なのだから。