ようやく奥の方から引っ張り出すと、レオポルドはエニーナに服を渡そうとした。
ルンは今、厨房で食事させているという。
「お湯の用意もいたしますけれど、これをあの子にですか。」
「多分、着られると思う。あの服よりマシだろう。」
「女の子ですよ。」
エニーナは困惑したような顔を浮べた。
「え!?」
レオポルドとアドルは顔を見合わせた。
「やはりお気付きでなかったのですね。」
「本当ですか。母上。」
「ええ。」
「だって、髪がなかったぞ。」
レオポルドが言い訳をした。
いくら活発でも、あんなに髪を短くしている少女は見たことがない。
「女の子が一人で旅をするのですもの。色々危険ですから、男装のつもりだったのでしょう。」
人買い、山賊、暴漢。
少しでも目を眩ますことができるかもしれない。
実際、二人は少年と思い込んでいた。
「服は何とかいたします。ご心配なさらずに。」
エニーナの後姿をレオポルドとアドルは見送るしかなった。
しばらく後こざっぱりして部屋を訪れたルンの顔を、レオポルドは真面目に見つめてしまった。
色白で、、なかなか可愛らしい顔立ちをしている。
少し大きそうな服は、小間使いからでも借りたのか。
女の服装をしていれば、確かに少女に見えた。
「どうもありがとうございました。」
ルンが食事と着替えの礼を述べると、レオポルドは首を振った。
少年と誤解した事は黙っておくことにして。
レオポルトとアドルとルンがテーブルを囲む。
改めて年齢を聞くと十四だという。
「どこから来たのか教えてくれないか。」
「マーテルです。」
聞き覚えがあるのか、レオポルドが表情を動かす。
「そうすると、領主は…。」
「ザカート様です!」
アドルも顔色を変える。
「本当にひどいんです。聞いてください!」
ルンは必死に訴えた。
ザカートは貪欲で村人から必要以上に税を搾取し、出来ないとなると乱暴を働いた。
特に好色で若い娘や綺麗な娘を村人に差し出せと迫り、断ると税を重くしたり、冤罪を着せもした。
それでも言う事を聞かないと、
「領主に逆らう者は魔女だ!」
と、決め付けるのだという。
「何だと!?」
「皆、怖くて渋々従うしかないんです。」
現に被害にあった人間がいる。
以前、逃げようとした娘が捕まり、恋人と共に火あぶりにされたのだ。
二人だけでなく、家族諸共に。
「皆殺しか…!」
「何度も都に行こうとした人はいました。でも…。」
大抵は見つかり処分され、戻ってきた者はいなかった。
ルンの目には涙が浮かんでいる。
「このままじゃ、マーテルの人は誰もいなくなってしまいます。私の姉さんも館に…。」
「連れて行かれたのか。」
レオポルドの質問に、ルンは頷いた。