気持ちはわかるが、だからといってレオポルドは教える気になれない。
 心の中でため息をつくと、
「騎士の役目を取らないでくれ。」
 半分、冗談めかして受け流した。
 すでに、ザカートの件は不在の父王にあてて、伝令を遣わしている。
 戻り次第、騎士隊を動かせるよう、準備を進めていた。
 ルンは諦めきれないようだったが、レオポルドもアドルも忙しそうなので相手をして欲しいとも言えない。
 マーテルの地のために、二人とも真剣になってくれている。
 
 何日か経った後、ルンがレオポルドの部屋を退室した時、甲冑姿の人間が一人早足で近付いてきた。
「見かけぬ顔だな。新しく入った者か。」
「は、はい。ルンといいます。」
「そうか。王子は?」
「中にいらっしゃいます。」
 それだけ聞くと、勝手に扉に手をかけた。
 思わずルンが止めようとしたのだが、間に合わなかった。
「今帰ったぞ!レオポルド。」
「父上!?」
 中から驚いた声が響いてくる。
 レオポルドの父、と言う事は国王ジュセスでないか。
 半開きになっている扉から、会話が聞こえる。
「ご連絡いただければ、出迎えしましたのに。」
「皆より一足先に戻ってきた。後で私の部屋に来なさい。」
「それなら着替えた頃、呼んでくだされば良かったでしょう。」
「何を言う。息子の顔を見にきてやったのではないか。」
 ジュセスが再び廊下に出てきた時、ルンが立ちすくんだままだった。
 ルンは目が合った瞬間、慌てて頭を下げた。
「陛下とは存じ上げずに、ご無礼いたしました。」
「構わぬ。早く城に慣れると良いな。」
 気さくに声をかけて去っていく。
 レオポルドと同じ黒髪。
 どことなく声も似ている。
 完全に閉まっていない扉からレオポルドが出てきた。
「まったく父上は…。驚いただろう、ルン。」
  呆然としているルンにレオポルドが苦笑しながら言った。
「物事にこだわらぬ性格だから、気にしなくていいぞ。」
 どうやらジュセスとレオポルドは似たもの親子らしい。
 固まっていたルンはようやく、歩き出しのだった。

「あの娘か。レオポルド。」
 少し時間を置いて訪れたレオポルドに、ジュセスが聞いた。
「はい。」
「ザカートは都を追われたくらいでは駄目らしいな。」
 以前も都で事件を起こして、ジュセスが都から追い払った。
 レオポルドが用意しておいた報告書を読んで呟く。
「今度はお前が行くか?」
「もちろんです。」
 国境近くの小競り合いに、レオポルドが行くと言うのをジュセスが出陣してしまった。
 騎士隊に任せてもよいのだが、二人は自分達で動きたがる。
「潔く非を認める奴ではない。気取られぬようにな。」
「処分はいかがいたしましょう。」
「任せる。領民達の納得いくようにするが良い。」
 
 レオポルドがマーテルへ出立すると聞き、ルンが、
「私も連れて行ってください。」
 と、頼んだ。
「城で待っていなさい。」
「お願いです。私なら道案内も出来ます。」
 断られても、ルンは諦めなかった。