レオポルドは許可するつもりはなかったが、ジュセスが
「連れて行ってやれ。」
 とルンに同意した。
「少年の格好させれば、お前の世話係に見えるだろう。」
「父上。」
 レオポルドの非難を込めた目に、
「現地に詳しい者は必要だ。都まで一人で来た子なら、然程足手まといにもならんさ。」
 危険を伴うことはルンも承知している。
 一人だけ安全な場所にいたくないのだ。
 出立の直前、レオポルドがルンに一本の短剣を渡した。
 受け取ると、ズシリとした重みが伝わってくる。
「念のため、持っていろ。できるだけ私かアドルの側を離れるな。」
 マーテルまで野営も続く。
 賊に獣、何が起こるかわからない。
 
 もう少しでマーテルという森の中、枝に何人かの死体が吊られているのを見つけた。
「その人達…」
 ルンが青ざめた顔で呟いた。
「顔見知りの者か。」
「一人は村長さんの息子さんです。」
 都に行く途中で、ザカートの追っ手に殺されたのだ。
 放置しておけずに、その場に葬ってやる。
 アドルが付近で何かを拾った。
「レオポルド様。」
 何重にも革や布で包まれている。
 中身は訴状だった。
「動かぬ証拠だな。」
 ザカートの手の者も探したに違いないが見落したのだろう。
 まさに命懸けの訴えだ。
 ザカートに気付かれないよう、途中で騎士隊を分散させたのは間違っていなかったようだ。

 もうすぐ夜という時刻、闇にまぎれてルンの案内で村に入る。
 村長を始め、皆、驚いた。
 ちょうど周辺の村長たちも集まっていた。
 旅立った村人の身を案じてのことだが、レオポルドの話に肩を落とした。
「そうでしたか。どうか彼らと娘達の敵をとってやってください。」
 そしてルンに向かい、
「いなくなって、もしやと思っていたが…。よく無事だった。」
 都まで辿り着いて、騎士隊を連れて来るとは。
 それも王子が直々にだ。
 レオポルドは顔に傷を負い、布やベールで隠した女性が多い事に気付く。
「領主様に目を付けられるのを恐れてのことです。」
 自分達で火傷や傷をつけたのだ。
 若い娘達がザカートに連れていかれるより、火焙りにされるよりましだと。
 そこまでして身を守らなければいけない。
 レオポルドは怒りを新たにし、ザカートの館へと向かう。
 さすがにルンは村長の家へ預ける。
 村を襲撃されないよう、騎士隊の一部を残した。

「マーテル領主、ザカート!悪逆の罪明らかなり。おとなしく開門せよ!」
 騎士隊によって取り囲まれたザカートの館。
 門前での呼びかけに対する反応はない。
 レオポルドが剣に手をかけた瞬間。
 無数の矢が飛んできた。
 ザカートの返答である。