時間をずらしてエンリックに会いに行ったマティスはお茶の時間だと応接室で、先にきた二人と
同じく「白うさ」「花うさ」のお菓子を勧められ、さらに福袋の検品に付き合わされた。
「ガーデニング流行りだから、オリジナルで出したいんだけど、何かある?」
「何種類か組み合わせるようにして、寄せ植えセットはいかがですか。」
「店とかぶらない?」
「来年は『初めてのガーデニングセット』にしようかと思ってるんです。」
「『レディ・ヴァイイオレット』は?」
「あれは福袋にできません。看板なので…。」
「お年玉抽選の商品にはできないかな。」
 ダンラーク百貨店は年明けにお買い上げ金額によって、からくじなしの抽選ができる。
「…二鉢でいいですか。」
「三つ欲しいな。」
「用意します…。」
 社長という以上に妻の父だと思うと断れない。
 宣伝費だと思えば良いことだ。
「そろそろエントランス前に鉢植えコーナー出すけど、準備はできてる?」
「来週ですよね。」
 クリント種苗の商品は花もちが良いといわれ、年末年始にかけてシクラメン、南天などを買い
求める客も多く、屋上ではなく一階に他の花屋と共同で鉢物を並べている。
「あと、こういうの作りたいんだけど…。」
 企画段階なのかデザイン画をマティスに見せる。
「『白うさ』と『花うさ』の鉢ですか。チューリップでも植えたら、かわいいですね。」
「売れると思う?」
「女性はうさぎが好きです。」
 カトレアは自社マスコットだったせいか、うさぎの小物を良く持っている。
 うさぎ柄のポーチ、食器、ハンカチと、もちろん「白うさ」と「花うさ」のぬいぐるみも飾っている。
 「白うさ」「花うさ」グッズをマティスに持たせて送り出した後、またエンリックはギフトセンターで
マイクを握っている。
 閉店後は、社員と一緒になって配送伝票の整理と福袋の詰め合せである。
 何しろ福袋によって一年の客足が決まるのだ。
 損して得取れといわんばかりに、内容重視である。
 売れ行き次第で年度決算に差が出るので、各百貨店も凌ぎを削る。
 
 正月二日の初売りには、またエンリックの声が店内に響くのである。
「皆様、本日は年明け早々お運びありがとうございます。ごゆっくり店内をお楽しみください。
本年も何卒、ダンラーク百貨店をよろしくお願い申し上げます!」


                              <完>


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