会議の場が一変した頃、サラティーヌは病床の王に話しかけられていた。
「このような国に嫁いできて、大変であったな。振り回されて、苦労したであろうに。」
サラティーヌは首を振る。
「私は幸せですわ。殿下の妻で良かった、と思っています。優れた行動力と判断力を備えた方ですもの。」
「そう、言ってくれるか。果報者だな、ジェフドは。不肖の息子だが、頼むぞ。」
「はい。私も信じております。」
ルドモットは安堵した。
他に味方がいなくてもにサラティーヌとテイトが、支えとなってくれれば、ジェフドは大丈夫だろう。
国王ルドモット二世が、還らぬ人となったのは、十日後のことであった。
息を引き取る間際、
「ジェフド、名や誇りより命を惜しむのだぞ。まず、生き延びることを考えよ。生きてさえいれば、国の再建はできるのだから。良き王に……。」
ジェフドの手を離さぬまま、そう言い残して。
混乱の中に、身を置かなくてはならなくなった息子を、どんなに案じたことか。
(父上、親不孝な息子で、さぞかし心残りでしょうが、せめてカルトアの行く末を見届けてください。)
見守ってほしいとはいえない。
たった今から、ジェフドが国を守る立場だ。
そして、父王の枕元で、後ろで束ねてあった長い髪を、首の付け根あたりで、ばっさりと、切り落とした。
その光景を見て、誰もが息を呑んだ。
「早急に葬儀を執り行う。一国の王にふさわしい用意を。」
ジェフドの『国王』としての、最初の言葉であった。
この決定に反対する者も、少なくなかった。
王の崩御が明らかになっては、諸国に直ちに攻め込まれる隙を作る可能性がある。
もうしばらくは隠したほうが得策ではないか、と。
だが、ジェフドは取り合わなかった。
「遅かれ、早かれ、戦乱にはなる。それがわかっていて、父上の死をうやむやにはできぬ。」
軍備が必要な現在、時間も出費も惜しい。
それでも、という理由がある。
カルトアが、もしもの際、最後の王は、父ではなく、自分でなくては。
滅亡の憂き目にあうなら、王子ではなく、国王として責任を負わなくてはならない。
先王の葬儀と新王の即位式が続けざまに催されたことは、派手に映ったに違いない。
同時にカルトアの世代交代は、公の知ることになってしまった。
ルドモットの崩御により、不穏な空気が、一気に流れ始める。
これを機と見た各国が動き出したのである。
城の大広間に、臣下達を一同に集め、不安な胸中の者もいる中、
ジェフドはこう言った。
「すでに王は私だ。国の運命を共にできぬ、と思う者がいれば、遠慮はいらぬ。出奔しようと亡命しようと、罪には問わぬ。皆の自由だ。私が許す。」