「何をおっしゃいます。殿下はカルトアのただ一人のお世継ぎ。気弱なことでは困ります。」
 昔から、城でジェフドを理解してくれるのは、ルドモットとテイトだけだった。多分、今も。

 テイトに促されたものの、重臣達は礼節を守っているとはいえ、王が重病に陥り、さらに国が危機にさらされるまで、城にもいなかった王子に何がわかる、という、態度だ。
 口にこそはっきり出さなくても、ありありと感じられる。
 だから、ジェフドも最初から黙ったまま、意見らしいことは、一切口にしなかった。
「もし、万一の場合は、グレジェナに援軍を出してくれるよう、密約を結んでおいたほうが良いと思うが。」
「いや、まだ何も起こっておらぬ内、そんなことをしては、それを理由に攻め込まれるかもしれぬ。」
「だが、動かれてからでは遅すぎる。」
 ずっと、堂々巡りが続いて、
(−これが会議か。)
 ジェフドは、心の中でうんざりとつぶやいた。が、一瞬、静かな沈黙ができた時、
「少し、いいか。」
 控えめに口を開いた
 突然、発言したジェフドに、はっとし、
「もちろんです。どうぞ、殿下。」
 一同の視線が集まる。
「今頃、意見できる立場ではないが、あえて言わせてもらう。グレジェナからの援軍は、多分無理だ。確かに我が国との付き合いは旧い。それでも、あの国とて諸国に目を付けられてるのは同じだ。自国の事で精一杯の時、はたして他国のため、動いてくれるものだろうか。」

 臣下が隣国グレジェナを頼る気になるのもわかる。
 サラティーヌが、グレジェナの有力貴族ハーレシュ公の息女だったせいだ。
「お言葉ですが、殿下。だからこそ、お互いのため協力してくれるのではありませんか。こう申しては失礼だが、殿下はずっとご不在でおられたのですし……。」
 返ってきて、当然の言葉だ。
「皆の言い分もあろう。だが、私とて、外でそれなりの情報を得ている。」
 ジェフドは、これまで自分が知りえた話をした。
 トルーマがあわよくば、カルトアとグレジェナの両国を手に入れようと目論んでいる事。加えて、シュリオンとグレジェナ間にも、不穏な空気が漂っていること。均衡が崩れそうな他の国々の状況。
「残念だが、カルトアには無理して加勢をしてもらうだけの国力がない。仮にそうなったとして、見返りは何だ?どこが無償で力を貸してくれる?逆に他国が我が国を条件に手を組むかもしれないと、なぜ考えられぬ?小国は、それなりの別の対策を考えねば、生き残れないぞ!」
 ジェフドは、居並ぶ重臣達を一喝した。