テイトは思わずジェフドとサラティーヌの顔を見つめ直した。
「もしや……。」
 サラティーヌは黙って頷いた。
 万一の場合、カルトアの希望になる。
「勅命とあらば、承ります。」
 騎士の中で、テイトほどの腕を持つものは少ない。
 戦場であれば、さぞ役に立つはずだ。
 そして、ジェフドにとっては、またとない腹心。
 あえてサラティーヌのために、戦陣からはずすのであれば、我儘はいえない。
 結局どこにいようと、お互いのそばにはいられないのだから。
 残って、足手まといにはなりたくない。
 ナーサというグレジェナから、ただ一人連れてきた侍女にだけ打ち明けて、サラティーヌは支度を整えた。
 すぐにでもというジェフドの言葉に
「せめて、あなたの出立を見送ってから。真っ先に王妃が身を隠したなんて士気にもかかわるわ。」
これだけは譲らなかった。
 数日後には、ジェフドも城からの出陣が決まっている。
 目立たぬようにと、サラティーヌの荷物も多くはないが、その中にはカルトア王家の系譜や史書も含まれている。
 カルトアの歴史や文化が、全部灰になったら困る。

 薄日の差す中、カルトアの軍勢が城に集まった。
 軍装を身にまとったジェフドは、サラティーヌに声をかけた。
「気をつけて。」
「私は大丈夫。何があっても、立派に育ててみせるわ。」
 ジェフドは、テイトとナーサに
「頼んだぞ。」
 そう言って、馬にまたがる。
「一命を賭しましても。」
 テイトが深く頭を下げる。
 駆けていく寸前、サラティーヌが呼び止める。」
「あなた、名を……。生まれてくる子に名を付けて。」
 ほんの一瞬、とまどったようだが、考えていたのかもしれない。
「そうだな……。王子だったらライクリフ。王女だったら、エルリーナと。」
「あなたの武運を祈っています。」
 ジェフドは妻に笑い顔を向けた。
「私には、五人の王の加護がある。」
 彼と同じ名を持つ国王は、過去に五人。
 ジェフド六世。
 現在の彼の名だ。
(どうあっても、守ってみせる。たとえどんなことをしても。私にカルトアの命運を賭けてくれた者たちのために!)

トルーマ、グレジェナ、クシル、シュリオン、カルトアの、諸国入り混じっての戦が始まった。