この年、トルーマ国王フェイソン三世が崩御、各国の足並みが揃わなくなった。
 おかげで滅んだかもしれない小国カルトアは、かなりの損害と痛手を被ったものの、幸運にもそれを免れた。
 他国も、内乱や陰謀による自滅の危機さえある中、国外へ目を向けていられなくなったのである。
 
 城を離れたサラティーヌは海辺の家に身を寄せていた。
 すでに、一年近い月日が流れている。
 夫が海を見、波音を聴きながら、竪琴を奏でるのが好きだったため、何度となく浜辺を訪れてしまう。
「潮風は、お身体に障ります。」
 長い時間、外に出ているとナーサが心配して、様子を見に来てくれる。
「つい、ここにいれば、あの人がいるような気がして。」
 家へ戻ろうとしたサラティーヌは、ふと足音を聞いたようで、歩みを止めた。
 思わず、振り返ったその先には……
「ただいま。サラティーヌ。」
 お互いが、走りよって、相手を抱きしめる。
 こんなに長い間、離れたことは、かつてなかった。
 どれだけ愛して、必要としていたか。
「迎えが遅くなってすまない。待たせてしまったな。」
「あなたさえ、無事に生き残ってくれたなら…!お帰りなさい、ジェフド」
 別れた頃より、短く切ってしまった銀の髪が、多少伸びて、風になびいている。
 変わったといえば、そのくらいだ。
 家の前には、テイトが待っていた。
「お帰りなさいませ。陛下。」
 膝をついて、忠誠を誓った主君を出迎える。

 ジェフドは、家の中に入って、周りを見回した。
「サラ、その…」
「わかってるわ。ライクリフとエルリーナね。」
首を傾げるジェフドに、テイトが笑いを浮かべて付け加えた。
「双子でございます。陛下」
「双子か……!」
 喜びと驚きに満ちた声を出した。
「眠っているから、後になさる?」
 サラティーヌの言葉は、意地悪だろう。
 すぐに会いたいに決まっている。
 奥の部屋では、二人仲良く並んで、すやすやと眠っている。
 寝顔を見て、ジェフドは迷った。
「どっちがどうなんだ?」
「エルリーナが姉。ライクリフが弟よ。」
 ジェフドが聞きたいのは、別のことだ。
 多分サラティーヌは、試すつもりに違いない。
「わからないの?」
 じっと見入った後、ジェフドは言った。
「いや、右がエルリーナ。左がライクリフだ。」
「当たってるわ。よくわかったこと。」
「自分の子が、見分けられなくてどうする。」