ジェフドは、自慢げに言ってのけて、改めて、子供たちを見つめなおした。
「強運の星の下に、生を受けた子達だ。」
どんな人間に育つのか。
できれば、人に信頼される人間にと、願う。
まだ、赤ん坊に、将来を思い描く姿は、ただの一人の父親であった。
ジェフドが語るところによれば、戦の指揮を他の者に任せ、トルーマに潜入した。
単独行動を起こすことに、重臣たちを何日もかかって、説得したという。
驚くことに、フェイソン三世を、この世から消したのは、ジェフド自身だ。
吟遊詩人に誅殺されるなど、トルーマも思いもよらなかったに違いない。
戦が始まったというのに、連日、宴などしているから、隙もできる。
油断している城中に入り込むなど、旅の吟遊詩人を装えば難なくできようというものだ。
ただ、脱出する時は、どさくさに紛れるしかなかったが、ついでにあることないこと、噂を撒き散らした。
だが、混乱に陥った戦火のため、簡単にカルトアに戻れなくなったのは、仕方ないことだ。
クシルを通り、シュリオンを抜け、グレジェナに入って、迂回して帰国する羽目になった。
行く先々に、流言飛語を置き土産に残して。
カルトアから、目を逸らせてもらうための撹乱だったが、そのでたらめのせいで、トルーマとシュリオンは同盟を破棄し、戦になった。
多分、フェイソン三世の暗殺もシュリオンの企みとされ、ジェフドが仕組んだと気付かれる事はないだろう。
カルトア歴代の王の中でも、波乱に満ちた生涯を送った伝えられるジェフド六世には、その後、色々な逸話が残された。
各地を旅し、戦乱の世を生き、様々な経験を持つ彼の一生の教訓にしたこと。
それは『何があっても、どんなことをしても生き残る』ということだ。
だからこそ、諸国に領土を踏みにじられもせず、小国ながらも生きながらえることができたのだと。
また、一人ではなく、自分を信じてくれた人間がいたからこそ、と、改めて思い返したという。
・・・風に光る銀の髪 海に映える青の瞳
左手に竪琴 右手に剣を携えて
颯爽と日々を駆け抜ける・・・
カルトアの詩に織り込まれた、この一節は、ジェフド六世を謳ったものとして、世に伝えられる。
琴の調べは波の音・・・<完>
あとがき