連日のように、催される園遊会や夜会で、ジェフドも億劫になってきたが、サラティーヌを見かければ必ず声をかけてきた。
 他に知り合いもいないせいもあるが、何せ初対面で性格がばれているようなので、気安かったのである。
 それに、いつも退屈、というか、つまらなそうにしている彼女が気になった。
「あら、それは当然ですわ。皆様、私のことを見ているわけではありませんもの。」
 大貴族の令嬢にしては意外な答えだ。
「貴女はグレジェナの華だと、陛下がおっしゃっていましたが。」
「公爵令嬢の肩書きのおかげで、迷惑ですこと。」
 サラティーヌを賛美するものは多いが、求婚者となると、まだいないそうである。
 やはり、公爵をはばかっているらしい。
 話がまとまればよいが、逆鱗にふれたら出世どころか、もう城にも顔を出せなくなる。
「結局、すべてを賭けるほどの価値がないということですわ。私と父は別の人間だと気付いてくださる方は、ここにはおりません。」
 そんなことはないだろう。
 少なくともジェフドは違う。
 大体、サラティーヌは人の本質を見ようとしてくれる。
 ジェフドの内面を知って驚かないのは、カルトアにもそういない。
「女では、外にも気ままに歩けません。殿下がうらやましいわ。」
「いつも怒られてます。王子が勝手に城を出るなと。」
「私も、外の空気に触れてみたいです。」
 何不自由ない生活。
 それだけで幸福が約束されているのだろうか。
 どのような高い身分に嫁いでもおかしくない家柄で、父も周囲の者もそう思っている。
 でも、彼女が望んだわけではない。
 枠にはめられたくないと願うのは、わがままなのだろうか。
 ジェフドには、サラティーヌの考えていることが、まるで自分のようだ。
 ああしろ、こうしろ、こっちだって人形ではない。

 「春の祭り」が終わりに近付くと、ジェフドも帰国の日が迫ってくる。
 名残惜しいが、どうしようもない。
「なあ、テイト。『花の祭り』に誘われたんだから、一つくらいもらってもいいと思う?」
 そろそろ、帰国準備を始めたジェフドがたずねてきた。
「なにか珍しい品種でもございましたか。」
「カルトアにはなかった気がする。」
 今までおとなしくしていたのだから、最後に花盗人になっても罪にならないだろう。
 城の庭園を、記念にとサラティーヌに案内を頼んだ。
 良く手入れされた、どこもかしこも見事な生垣。
 咲き誇る花の中で、サラティーヌの金の髪がより輝いている。
「一緒に広い世界をみてみませんか。」
 ジェフドの言葉にサラティーヌは、呆然とした。
「退屈はさせません。カルトアに、私の元へおいでくださいませんか。」
 サラティーヌはジェフドを見つめたままだ。
 澄んだ青い瞳。
 「自分」に向けられている眼差し。
 真っ直ぐにサラティーヌだけを想ってくれる人間。
「殿下との毎日は、きっと楽しいでしょうね。いつ、正式に申し込んでいただけますの?」
「帰国したら、すぐに!」
 お互い立場がある。
 このまま連れ帰っては、それこそ外交問題だ。
 ジェフドが首からペンダントを外して、サラティーヌに渡す。
「婚約の証です。持っていてください。」
 金の鎖に通してある、何か鳥の紋様が刻まれたペンダント。
 カルトア、リシュバーン王家の紋章である。