第一、テイトは無口で愛想がないことで知られている。
旧知の仲のジェフドはともかく、はたしてどれだけの人間がそうではないと知っているか。
「でも、優しい方です。陛下と王妃様が旅に出た後も、気遣ってくださいました。」
ジェフドの皇太子時代、サラティーヌが共に城を留守にしたため、ナーサは一人、置き去りにされた形となった。
サラティーヌの不在中、黙ってグレジェナに帰ることもできず、随分心細い思いもしたらしい。
ましてや、他国で親しい知己もいない。
ずっと、励ましてくれたのが先王ルドモットとテイト、ということになれば、ナーサが特別の感情を持ったとしても不思議ではない。
「それに、王妃様と陛下のお帰りを待っていた時も、頼りになりました。」
これにはサラティーヌも納得せざるを得ない。
戦に出陣したジェフドを待つ間、二人の子と彼女達を支えたのは、テイトに他ならない。
不安と動揺がよぎる中、
「陛下はきっと無事にお戻りになります。」
笑ってテイトは応じたものである。
「まあ、確かに根は優しいから。」
ジェフドは苦笑する。
昔からお小言が多いが、落ち込んだ時や相談事は、実に親身になってくれる。
たまに父に厳しく叱られれば、何度も一緒に謝るか慰めるかしてもらったものだ。
おかげで、ジェフドはどこかテイトに頭が上がらない部分がある。
サラティーヌがナーサとジェフドを見比べて、無言のまま目で訴えてくる。
(テイトとナーサ、何とかなさってくださいますね。)
自分のことであればともかく、他人の恋愛に首を突っ込むのは、ジェフドの性格ではないが、この際、放っておけないようだ。
「本人同士の問題だから。」
などと口にだそうものなら、
「そのように薄情な人だとは思ってなかったわ。」
逆にジェフドがサラティーヌに愛想を尽かされそうであった。
ナーサはサラティーヌに任せるとして、ジェフドはテイトにどう切り出せば良いのか。
日中はお互い忙しく、いつものように冗談の種にもできない。
結局、子供達が寝静まった夜に、ジェフドが酒瓶片手にテイトの部屋に出向く。
「御用であればお伺いしますのに。」
ジェフドを居室に迎えつつ、テイトが言う。
「特に、用ではないんだ。」
ジェフドは室内に入りながら、思った。
(この環境がいけないか。)
テイトは城内の居室で暮らしている。
以前、何度か、ルドモットが家を与えようとした時期、ジェフドが駄々をこねて、沙汰止みになり、成長したジェフドが外に出歩くようになって以来、話に出なくなった。
いつの間にかお目付け役になったテイトは騎士でありながら、正式に城の騎士隊に所属していない。
勿体無いと思いながら、ルドモットはジェフドの側近としてテイトを残した。
いずれジェフドが王になった時、本音で接してくれる人間として。
「テイト、その、近くに可愛いと思う娘なんか、いないのか?」
質問に困って、単刀直入に聞いた。
思わず、テーブルの上にグラスを出していたテイトは、危うく手を滑らすところだった。
椅子に座り、首を捻りながら、
「可愛い、ですか?姫でしょうか。」
ジェフドは声を高くした。
「駄目だ!エルリーナはいくらお前でも嫁にはやらない!」
ジェフドも父親である。
何故自分より年上の男に嫁がせなければならないのか。
「陛下、何をおっしゃているんですか!?」
テイトにだって、そんな気はない。