ヴェスナーの質問にウィリアムが反論した。
「頼まれたんじゃないよ!この間、聞いちゃったんだ。」
先日、夜遅く、モニカと弁護士の話に聞き耳を立てていたらしい。
ヴェスナーの行方がわかったと知ったウィリアムが自分でポリス・アカデミーの場所を調べたのだ。
一人で出かけようとした際に、妹に問い詰められ、一緒に来たらしい。
「じゃ、家には、何も言ってないのか。」
「友達とキャンプに行ったことになってる。」
道理で、大きなリュックを持っているはずだ。
「嘘ついてきたのか。まるで家出だ。」
「家出は兄さんの方じゃないか。何年も連絡くれないで。ずっと行方不明、生死不明で。待ってたのに。」
弟の言葉に、ヴェスナーも動揺する。
待っていた?ずっと?行方不明のまま?
「もしかして、俺の死亡届、出してないのか…?」
「当たり前だよ!今、目の前に生きているじゃないか!」
ポリス・アカデミーにいるからには、法律も学ぶ。
宇宙船事故の事例では、ほとんど五年が経過すると死亡として扱われる。
ヴェスナーは、ただでさえ当初から死亡者リストに名があった。
「お父さんは遺体が見つかったけど、兄さんはなかったからって。」
ウィリアムが泣きそうな顔をしている。
諦めろという親族にモニカが反対したのだという。
だから、葬儀も父ハーベルの分しか行っていない。
ヴェスナーは、法的にも生き続けている。
おそらく、事故当時の記録とレギン家の情報網から、ここまで辿り着いた。
病院、施設、学校、事故関係者の再調査。
何年もかけて。
「帰ってきてくれないの、兄さん。僕もキャサリンも覚えてたんだよ。」
まだ、幼かった二人さえ、ヴェスナーの存在を忘れていなかった。
今でも自分の家なのだ。
「帰るよ。」
ヴェスナーが呟いた。
「ただ、もう少し待ってくれ。あと一月で卒業なんだ。」
「きっとだよ。」
ウィリアムが念を押すと、キャサリンが言った。
「大丈夫。おまわりさんは、嘘つかないよね。」
ヴェスナーの紺の制服。
子供の目に、本職との違いはわからない。
約束を破るわけにはいかないようだ。
黙ってヴェスナーの所へやってきたウィリアムとキャサリンは、早く帰さなければ。
外出許可を取る時、受付に聞く。
「この間のエア・カーの点検は終わってる?」
「終わってるよ。あと、試乗だけ。」
「キー貸して!俺、今から走らせるから。」
とにかく地球行きの連絡便に間に合わせないといけない。
車庫からエア・カーを持ち出して、門前に止める。
「二人とも、早く乗って。」
「わあ、警察のエア・カーだ。」
無邪気に喜ぶ二人にヴェスナーは、声をかけた。
「飛ばすから、しっかり掴まって。」
教官には、試乗レポートでも書いて許してもらおう。
宇宙港を往復するには、仕方がない。
「ちゃんと、真っ直ぐ帰るんだぞ。家には連絡しておくから。」
「うん。兄さんもね。」
ウィリアムとキャサリンが搭乗するのを見届けて、レギンの家に通信を入れる。
地球到着予定の日時と宇宙港名。
「来月、戻ります。ヴェスナー」
最後にこう付け加えた。